社会的弱者 「孤独死」と「孤立死」の差

2012年11月04日産経新聞

 「独り暮らし」は「1人暮らし」とも書きます。独り暮らしは孤独を強調して「独り暮らしの高齢者問題」など。1人暮らしは、人数に重点を置いて「アパートで1人暮らし」などと使います。

 昔は高齢者は「独り」、若い人は「1人」などと使い分けていましたが、最近は高齢者の方が若々しくて、旅行、グルメや趣味に没頭するなど優雅な生活を送っていたりして、孤独と決めつけるのには無理があります。

 反対に若い人は就職難や社会保障問題、ニートや引きこもりなど将来に期待が持てないなど、こちらの方が深刻で孤独にぴったり当てはまるように思われます。文脈によって使い分けることにしていますが、これがなかなか難しい。

 以下のケースは「1人」を用いていますが、結末は悲惨な「独り」が妥当だったかもしれません。

 <福島県郡山市の仮設住宅で5月、1人暮らししていた大工の58歳男性の遺体が見つかりました。病死と見られますが死後数日を経過。妻子とは別々に暮らしていたといいます>

 <8月に札幌のアパートで1人暮らしの59歳男性のミイラ遺体が見つかりました。死後3、4カ月、電気や水は止められ、冷蔵庫は空。餓死の可能性があるといいます>

 2件とも共通項は「1人暮らし」、弊紙を含む各メディアは、「孤独死」と見出しを立てて大きく報じました。

 「孤独死」は、誰にもみとられることなく死亡することを言います。阪神大震災の仮設住宅・復興住宅で10年間で数百人が死亡(自殺も含む)し、発見が遅れるということが続き、大きな社会問題となったころから使われ始めました。

 「孤独死」と同義語に「孤立死」があります。家族で暮らし、病気などで相次ぎ死亡したにもかかわらず、社会的孤立で発見が遅れたときなどに使われています。3月に東京・立川市の都営アパートで95歳母と63歳の娘の遺体が、死亡1カ月後に発見されたケースがそうです。
「孤立死」はここ数年よく登場しています。厚生労働省の「コミュニティづくり推進会議~孤立死ゼロを目指して」▽内閣府の「被災者の孤立死を防止するための有識者会議」など、政府関係の資料などで、目立つようになりました。

 ただし、「孤独死」「孤立死」とも明確な区別はなく、統計的には「変死」に分類されています。また、死後何日以上なら「孤独死」「孤立死」なのか、自殺ならどうなるのかなど、報道するメディア側でもはっきりとした使い分けができていないのが現状です。