増える買い物難民 生鮮品では56万人、北海道民の1割

2012年10月17日朝日新聞

 自宅からスーパーなどの商店が遠く離れ、日常の食料品を買うことすら難しい「買い物難民」が増えている。全国で推計260万人、道内では18万人に上るとされる。自治体が対策に乗り出す中、65歳以上の高齢化率が35%を超える喜茂別町では今春、コンビニも移動販売車をスタートさせ、不便の解消に一役買っている。

 「セブンあんしんお届け便がやってまいりました」。9月末、山あいの国道に、軽トラックのスピーカーの声が響いた。セブンイレブン喜茂別町店の移動販売車だ。

 積んでいるのは、弁当やパンなどの食料品から、洗剤やトイレットペーパーなどの日用雑貨まで約150品目。販売車には冷蔵・冷凍設備も付いている。

 ハンドルを握るのは、岩井真さん(34)。2年前、町の非常勤特別職員の募集に手を挙げ、余市町から移り住んだ。4月から同店のアルバイトに採用され、月~木曜の週4回、移動販売車を走らせている。

■選べる楽しさ

 雨の中、軽トラックが中里地区の集落に到着すると、宍戸春江さん(64)が待っていた。「きょうはすごく冷えますね」と岩井さん。宍戸さんは両腕をさすりながら「急に寒くなったよね」。

 宍戸さんは一人暮らしで、車がない。町中心部のスーパーまでは、バスで20分。冬場は大雪で、歩いて10分のバス停へ向かうこともつらい。以前は電話でスーパーの宅配を頼んでいたが、「実際の商品を選んで買えるのがうれしい。日用品のほとんどは移動販売を利用している」。

 高橋アチ子さん(83)も移動販売車を利用している。車を運転できた夫が18年前に亡くなってから、普段の買い物にも困るようになった。腰やひざも痛む。
「牛乳や豆腐をよく買う。重いものが持てないので本当に助かる」と笑顔を見せた。

■高齢世帯回る

 岩井さんが回るのは、地域の福祉施設などのほか、約70軒の高齢世帯。多くが一人暮らしだという。

 人口約2300人の小さな町に、スーパーは中心部に2軒だけ。20年以上前は5、6軒あったが、過疎化で人口が減り続け、店も次々と閉店していった。

 セブンイレブン喜茂別町店は、もともと希望者に店の商品の配達もしていた。店のオーナーの堀浩和さん(43)は「普段の買い物にも不便を感じているお年寄りが多く、移動販売の導入要望を出した」という。

 移動販売車を導入している全国のセブンイレブン24店舗の中で、岩井さんの売り上げはトップクラス。岩井さんは「物を売るだけではなく、家に閉じこもりがちな高齢者の見守りや話し相手にもなりたい」と話した。

■札幌市内でも

 「買い物難民」は過疎地だけではなく、都市部でも問題になっている。セブン―イレブン・ジャパンは今年、札幌市の手稲区と西区の2店舗で移動販売車を導入。政令指定都市では初めての移動販売車といい、広報担当者は「都市部でも近くに店がない地域があり、今後も要望があれば都市部にも導入していきたい」という。

 農林水産省によると、コンビニやスーパーなど最寄りの食料品販売店まで直線距離で500メートル以上離れ、車を持たない「買い物難民」は全国で約260万人。魚や肉などを扱う生鮮品販売店に限ると、その数は約910万人に上るとみられている。直線距離で500メートル以上離れると、実際は1キロ程度歩くこともあるため、買い物に不便だと感じる人の割合が高いと分析した。

 道内の「買い物難民」は、食料品販売店でみると18万人、生鮮品販売店でみると56万人と推計されている。生鮮品の場合、道内の人口に対する買い物難民の割合が、全国1位の長崎県に次ぐ10%で、全国平均の7.1%を大きく上回った。

 同省の農林水産政策研究所は「都市部では空き店舗対策などが有効な一方、農村部では交通や移動販売の充実が求められる。地域の実情に応じたきめ細かい取り組みが必要だ」としている。【滝沢隆史】