高齢者向け“サービス付き住宅”が人気!手軽な負担金

2012年08月30日産経新聞

 「さつきじゅうたく」
 こんな言葉を聞いたことがあるだろうか。「五月」も「植木」も関係ない。

 「サービス付き高齢者向け住宅」のことをこう呼ぶ。昨年「高齢者すまい法」改正により高齢者向け住宅が一本化され、バリアフリー構造で安否確認や生活相談などの要件を満たして自治体に登録されると、事業者は新築・改修時の建築補助や税の優遇が受けられる。また入居者は有料老人ホームなどと比べて比較的安く、要介護度にかかわらず入居できる。

 千葉県第1号の「サ付き住宅」を長谷工コーポレーションがつくったと聞いて出かけた。内房線の浜野駅から歩いて5分ほど、4階建て鉄筋コンクリートのマンションのような建物が、「ライブガーデン千葉浜野」。

 「もともと長谷工の独身寮だったものを一部改修して昨年末に開業しました」

 運営している「長谷工ライブネット」の常岡麻智子さんはこう説明した。

 「72室のうちほぼ9割が埋まりました。近隣の方がチラシを見たり、ケアマネジャーさんなどの紹介で見学に来て成約されました」

 人気の秘密はやはり負担金の手軽さだろう。18平方メートルの基本的な部屋の場合、家賃が月に3万6000円、共益費が2万円、そして安否確認や緊急時対応などの生活支援サービス費が2万5000円。

 そのほか食費、光熱費や、家事援助や入浴サービスなど介護保険で利用した場合の自己負担分はかかるが、有料老人ホームで必要な一時金は不要だし、入居時に敷金3カ月分は払うが、賃貸住宅につきものの更新料もない。

 「所定の審査はありますが60歳以上ならお元気な方でも要介護の方でも入れます。生活支援サービスや介護サービスを提供する会社も常駐していますし、昼間は病院の看護師もいます。ただ老人ホームではなく、あくまでも居室を賃貸するのが基本です。有料で提供している食事にも皆さんお好みがありますが、すべての要望にお応えするのは無理があります。サービス付き住宅という新しい取り組みを十分理解していただくにはもう少し時間がかかるかもしれません」と常岡さんは言う。

 朝食にパンが食べたい、牛乳を付けてほしい、といった個別の要望にすべてこたえるのは難しいので、缶ミルクのある自動販売機を設置したり、焼き立てパンの訪問販売を頼んでもらうようにしているという。

 長谷工コーポレーションの岡田裕執行役員は、「これまで有料老人ホームも建設、運営してきましたが、政府は今後10年で『サ付き住宅』を中心に60万戸まで高齢者用住宅を増やすとしていますから、われわれも今後力を入れていきたい」と話す。たしかに中高年の将来市場を考えると、「サ付き住宅」にはニーズがありそうだ。

 しかし、住宅に付随するサービスの内容は事業者によってもばらつきがありそうだし、利用者の期待値によっても大きく評価は分かれるだろう。ハードの建設は得意なマンションメーカーだが、どれだけソフトの充実ができるかがカギとなりそうだ。

■GS世代 可処分所得の高い「黄金の60代(ゴールデンシックスティーズ)」の略。グループサウンズ世代も意識したネーミング。

■西村晃 1956年生まれ。NHK、テレビ東京を経て、経済評論家。「GS世代攻略術」(PHPビジネス新書)、「ポスト・イット知的生産術」、「ルート16の法則」など著書多数。