孤死時代:宮崎 / 上
大塚台団地 高齢化進む“新興住宅” 孤立呼ぶ不干渉 / 宮崎
2012年08月18日毎日新聞
「新聞がたまり、訪ねても出てこない。おかしいと思ったらひどい脱水症状で倒れていた。民生委員や近所が気付かなければ、命に関わっていた」。宮崎市の民生委員で、大塚台地区社協事務局長を務める河野工さん(75)は、大塚台団地内で6月にあった「孤独死寸前」の事例を振り返り、表情を曇らせた。
この事例だけではない。膝が悪く、買い物に行けない独居高齢者と連絡が取れなくなり、駐在所に駆け込んだこともある。「足の調子が悪いだけでほっとしたが、最近、そういうことが増えている」と嘆く。
大塚台団地は70年代に造成された新興住宅地だ。高台に戸建てや市営・県営・UR(都市再生機構)団地などが建ち並び、3410世帯が暮らしている。かつては団塊世代がファミリーで入居。教育熱心な家庭が多く、子供を県外へ進学させたものの、そのまま就職や結婚で戻ってこないケースが少なくなく、近年、高齢化が急速に進んだ。7500人の住人のうち、60歳以上は4割に上る。
河野さんによると、住人のうち70歳以上の1人暮らしは約300人、高齢夫婦など同居人のいる80歳以上は約270人。団地内の自治会別では、高齢化率が41%と、市全体(21%)の倍近い地区もある。住人の1人は「田舎のような住民同士のつながりを避け『干渉しないでほしい』という人がここに集まった。だから孤立しない人の方が少ない」と指摘する。
障壁もある。孤独死防止の鍵は見守り対象者の把握だが、個人情報保護条例のため市の情報提供はない。自治会が組織されていない地区では「民生委員が足で調べるしかない」と河野さん。来年喜寿を迎える河野さんをはじめとして高齢者が多い民生委員にとって、エレベーターの無い担当地域を回るのは楽ではない。「ここの住人は皆、孤独死はひとごとじゃないと思っている」。河野さんは危機感を募らせる。
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誰もが孤独死と無縁でない「孤死時代」。昔ながらの地域のつながりが強いとされる県内でも急速に高齢化が進み、その到来は例外ではなくなっている。県が孤独死数の参考とする、65歳以上の独居者の検視件数は、07年以降は年20?40人のペースで増え続け、昨年は320人に達した。現場の苦悩や新たな動きを伝える。