緊急通報システム普及進まず
2012年05月30日長崎新聞
お年寄りが病気やけがなどの際に外部に助けを求める「緊急通報システム」の普及が伸び悩んでいる。20年ほど前から孤独死対策として全国の自治体が導入。しかし自らボランティアの「協力員」を確保しなければならず「利用しにくい」と不評を買っているためだ。
2月。佐世保市内で独り暮らしの女性(79)が、誰にもみとられず亡くなった。死因は心不全。連絡がつかず様子を見に行った近所の親類が、廊下に倒れている女性を見つけた。死後数日たっていたという。
女性は昨年の秋、同システムを利用できないか、市に相談していた。持病の糖尿病による発作で昏睡(こんすい)状態になったことがあり、県外で働く家族との同居も難しかったためだ。しかし利用者宅から徒歩5分圏内に住み、緊急時に駆け付ける「協力員」が見つからず、申請を保留していた。遺族は「必要とする人間が利用できない制度に問題はないのか。利用できていれば、違った結果があったかもしれないのに」と肩を落とす。
システムは高齢者の孤独死対策として、1988年に国が補助金制度を設けたのを機に全国に拡大。今でこそ、警備保障会社など民間事業者がこうした「見守りサービス」を提供しているが、当初は行政の福祉施策として始まった。県内でも全市町が同システムを実施している。
しかし、全国的に普及率は頭打ちの状態。民間シンクタンクの第一生命経済研究所(東京)によると、普及率(65歳以上の高齢者がいる一般世帯に占める機器の設置割合)は2001年は3.9%だったが、10年には3.2%に低下。佐世保市は0.3%、長崎市は1.7%にとどまるなど、県内でも低迷している。自治体の多くが「協力員の確保が困難」「自治体の費用負担が大きい」ことを課題に挙げる。システムが特に必要と考えられる独居や高齢者夫婦の世帯普及率は県も把握していないのが現状だ。
ある自治体の担当者は「隣人や親類に協力を依頼することをためらう高齢者も少なくない」と説明する。地域福祉に詳しい黒岩亮子日本女子大講師は「地域住民の協力を前提としたシステムの限界を露呈したとも言える。少なくとも低所得で身寄りのない高齢者には、協力者の不要なサービスを行政が提供すべきだ」と指摘している。
○ズーム/緊急通報システム
サービス方式は自治体ごとに異なるが、県内では民間事業者に委託する「委託方式」が主流。委託方式は自宅に緊急通報の専用発信機を設置。発信機やペンダント型送信機の非常ボタンを押すと、委託業者の受信センターに通報が入る。緊急性に応じ「協力員」に連絡して高齢者宅に駆け付けてもらったり、救急車の出動を依頼したりする。訪問介護員や警備員を派遣する業者もある。