遠くの親支えるには

2012年05月26日朝日新聞

 遠くに暮らしながら、親の介護を続けるためにはどんなことを知っておくべきでしょうか。89歳の父を介護する64歳の男性の体験談などから備えを考えます。

◆急な一報 父の異変

 その日は突然やってきた。

 「様子がおかしいんだ」。2008年2月、広島県福山市で暮らしていた平田敏彰さん(64)は、父(89)の異変をいとこから知らされた。

 父は約180キロ離れた鳥取県湯梨浜町で1人で暮らしていた。近所に住むいとこのもとに「田んぼを取られる」と何度も駆け込んできたという。真冬なのに薄着だった。

 年末年始の帰省では、特段気になることはなかった。数日後、実家に帰ると、いとこの言うとおりだった。父は1人で生活できているものの、認知症になっていた。

 遠距離介護が始まった。月1度、車で片道3時間かけて実家に通い、認知症治療の病院に付き添った。

 その年の7月、父は隣近所との境界を巡っていざこざを起こし、1日30回電話をかけてきた。親戚に言いがかりをつけて怒鳴り、時には暴力もふるった。

 年末には介護保険で「要介護1」の認定も受けた。父を説得し、毎週末にデイサービスに行くことに。送り迎えのために、実家と自宅を往復した。

 「もう1人で生活させられない」。定年まで2年を残した09年3月、夫婦で鳥取に戻った。

 それから3年。父の認知症はさらに重くなり、身に覚えのないことでののしられるようになった。「夫婦の生活を第一に考えよう」と今年2月、介護施設に入所を申し込んだが、まだ順番は回ってこない。今は週4回、父をデイサービスで預かってもらっている。

 平田さんは「元気なはず」と思い込み、父と疎遠になっていたことを悔やむ。「もっと早く異変に気づければ、手だてがあったかもしれない」

◆子に不調隠しがち

 子に面倒をかけまいという気遣いから、親が不調を隠すことも少なくない。お年寄りの相談に乗る「鳥取中央地域包括支援センター」の砂場公子さんは「『便りがないのは元気な証拠』は、高齢の親には当てはまらない」と話す。

 鳥取県米子市の男性会社員(57)は、約100キロ離れた鳥取市に暮らす父(89)が3月に痔(じ)の手術を受けたことを叔父の連絡で知った。手術前に介護保険で「要支援2」に認定されたことも知らなかった。

 親元を離れて30年。父への電話もおろそかにしていた。子育てや仕事に追われ、帰省は盆と正月くらいだった。父は「助けてほしい気持ちはあるが、息子にも仕事がある。1、2日の入院だし、迷惑をかけたくなかった」と話す。

 父の入院をきっかけに、男性は父の枕元に電子メールや写真を送れる携帯端末機を置き、まめに連絡を取るように心がけている。

◆まず電話で声かけ

 遠距離介護を続けるには、どうしたらいいか。遠距離介護者が集まるサロンを開いているNPO法人「パオッコ」(東京)の太田差恵子理事長(51)に、対策を聞いた=表。

 「電話で『元気?』と声をかけることも立派な介護」と、太田さん。会話から、親の暮らしに不便や不都合がないかをつかむ情報収集も兼ねる。

 まず、地域の様々なサービスを把握しよう。安否確認にもなる高齢者向けの食事の配達や、親の家のガスの使用状況をメールでチェックできる仕組みもある。「上手に組み合わせれば、子の不在を補える。市区町村の『地域包括支援センター』に相談して欲しい」

 介護保険も強力な助っ人だ。ただ、介護が必要かどうかを決める訪問調査には、子も立ち会いたい。

 暮らしぶりを尋ねる訪問調査員に、親は「できる」「大丈夫」と答えがち。本来より軽い認定結果になり、必要なサービスが受けられなくなることもある。

 長期介護を見すえ、予算も立てておこう。遠距離なら交通費だけで往復数万円かかる。航空会社の介護割引運賃やホテル宿泊とセットのツアーもある。

◆遠距離介護を乗り切る6カ条

(1)10年先を見通し、介護予防に重点を

(2)親と会話を増やし、生活パターンの把握を

(3)親が暮らす地域の情報収集は子の役目。ケアマネジャーや医師には積極的に連絡を

(4)いざという時は近所が頼り。親の友人、近所の人の連絡先を聞いておく

(5)親は育った時代背景が異なる。自分の価値観を押しつけない

(6)子どもの心と体の健康も大事。兄弟姉妹や配偶者、孫を味方につけて乗り切ろう

※太田差恵子・パオッコ理事長への取材から

○追伸 記者より○

 北海道に住む両親は還暦を過ぎたばかり。母はママさんバレーに精を出し、父もまだギラギラしています。介護は先と思っていましたが、それが落とし穴だと取材で教わりました。転勤族なので、介護が必要なとき近くにいるとも限りません。とりあえず、まめに電話することから始めます。(宋潤敏)