相次ぐ孤立死どう考える 医師、識者らに聞く

2012年05月15日神戸新聞

 長期間社会とつながりがないまま亡くなる「孤立死」が相次ぐ。「行政はもっと見守りを」「希薄になった地域コミュニティーの再構築を」と議論百出するが、目指す有縁社会はどこにあるのだろう。(黒川裕生)

 神戸市は、日常的に何らかの社会的なつながりを持つ人が1人で亡くなるケースを「独居死」、つながりがないケースを「孤立死」としている。

 65歳以上の独居世帯だけでも全国で約479万世帯(2010年国勢調査)に上る。約23万人の民生委員だけで、独居死や孤立死の可能性がある人すべてを見守ることは難しい。

「社会の到達点」

 「高度成長の中で、私たちは濃密な地縁血縁の村落共同体より緩やかな結び付きの都市化を選んだ。核家族も一人暮らしも自分たちが選び取った結果ではないか」

 旧厚生省の研究会委員として介護保険の創設に関わるなど、高齢者の医療や介護に詳しい岡本クリニック(芦屋市)の岡本祐三院長(68)は指摘する。「独居でも死ぬまで安全、豊かに暮らせることはこの社会が目指した到達点。孤立死という言葉の寂しげなイメージにとらわれ過ぎでは」

 甲南大(神戸市東灘区)の宮垣元教授(42)=コミュニティー論=は「人付き合いの大切さは分かっていても、仕事や趣味、同級生といった媒介項や交流の楽しみがないと実際に付き合いは生まれない。ネット全盛の今、『ご近所さん』だけでは媒介項になりにくい」

 宮垣教授が重視するのは出掛けやすさ。歩いていけるような距離に駅やバス停がある▽集合住宅ならば低層階かエレベーターがある‐そんな環境が外出を促し、コミュニケーションが可能になるという。

見守りに限界

 阪神・淡路大震災の復興過程では、地域コミュニティーを絶たれた被災者の孤立が社会問題になった。神戸市は独居高齢者を把握する「見守り推進員」を市内全域に配置。要望を受けた65歳以上の独居、75歳以上だけで構成される世帯の見守りをしている。

 こうした施策は、支援を受ける側の意思表示が大前提。神戸市の調査も回答率は約6割。「余計なことすんな」と拒む人も少なくない。市介護保険課の奥谷由貴子係長は「友人や趣味、仕事などを通じてどこかにつながりを持っていればいいのだが」と限界を認める。

異変キャッチ

 プライバシー、世間体、第三者の訪問への抵抗感…。声を上げにくい理由はさまざま。ならば、助かるはずの命を救えるよう、早い段階で異変を察知できないか。電気ポットの利用やドアの開閉などによる安否確認はすでに実践済みだ。

 神戸市は11年、コープこうべや新聞販売業者らと、配達先で異常に気付いたら、地域の「あんしんすこやかセンター」に連絡することを取り決めた。これまでに数件の連絡があり、亡くなっていたケースもあった。西宮、宝塚、豊岡各市も同様の試みをしており、奥谷係長は「察知する人の目を増やすことが大切」と強調する。

 個人情報のハードルはあるが、電気やガスなどの利用状況は活用できないか。今年さいたま市や札幌市で発覚した孤立死では、公共料金を滞納し、ガスなどが止められていた。大阪ガスの担当者は「滞納者のリストを行政などに教えるのは個人情報の第三者提供に当たる恐れがある。仮にすべての安否を確認しようとするとかえって混乱を招きかねない」と話す。

 宮垣教授は「個人主義の社会では、いくら絆を呼び掛けても望まない人もいる。その人の生き方の延長にその人の死がある。介護のように制度化しない限り、善意だけでは壁を乗り越えるのは難しい」と話している。