「孤独死」をどう防ぐか
地域での絆づくりを 特定非営利活動法人孤独死ゼロ研究会理事長 中沢卓実

2012年05月13日日経新聞

 孤独死の事例が絶えることなく報道されている。社会的な関心が年々高まり、防止に向けた取り組みも活発になってきた。私は千葉県松戸市の常盤平団地の自治会長として長年、孤独死を防ぐ活動を続けてきた。

 きっかけは2001年春に起こった出来事だった。常盤平団地の一室の板の間で、老年男性の白骨遺体が発見された。検視の結果、死後3年が経過していた。彼は離婚していて、兄弟らと一切連絡を取り合っていなかった。近隣との付き合いも皆無。家賃を自動振替にしていたが、残金が少なくなって不払いの状態が続き、管理する都市再生機構の担当者が男性宅を訪れて、初めて遺体を発見した。人間が亡くなったのに3年も気付かれない。これが孤独死か、と私は衝撃を受けた。

 私が暮らす常盤平団地は5359戸の大規模団地で、入居者に占める高齢者の割合は40%。この高齢化した団地で、だいたい年間15件の孤独死事例が発生していた。なぜ孤独死が起こったかを突き詰めるため、彼らの生活パターンを調べてみると、共通点があった。一人暮らしの前提に加えて、やはり私生活が孤立していた。孤独死の背景には「無縁」があった。

●社会の実態突く

 もともと日本は「有縁」社会だった。どのようにして「無縁」社会に変貌したか。その事情は橘木俊詔著『無縁社会の正体』(PHP研究所・2011年)に詳しい。家族の「血縁」、町内会・自治会の「地縁」、企業内の「社縁」が崩壊していく様(さま)を未婚率の上昇や非正規雇用者の増加の調査結果などと照らし合わせて解説。「一人ぼっち社会」の実態を鋭く突いている。

 今から約20年後の2030年の日本社会の未来予想図をリアルに書いたのが、藤森克彦著『単身急増社会の衝撃』(日本経済新聞出版社・10年)だ。各種の人口統計調査を基に分析した結果、50~60代の男性の4人に1人が一人暮らしに、高齢者の未婚者は男女とも20%を超えるという予測を記している。非現実的な予想ではない。国勢調査(10年)によると、全世帯に占める単身世帯の割合が初めて3割を超えた。中年や若者の間でも単身者が急増していて、時がたてば「一人暮らし高齢者」にスライドする。“孤独死予備軍”はますます増えている。「もはや『孤独死』は他人事ではない」という本書の警告を真剣に受け止めなければならない。

 では現在の、将来さらに深刻化するかもしれない孤独死を防ぐために何をすればよいのか。常盤平団地で「孤独死ゼロ作戦」の活動を続けてきた私自身の経験から、地域ぐるみでの絆づくりが重要だと申し上げたい。

●閉じこもる男性

 かつて会社で立派に働いた人も、定年を境に地域の一住民になる。特に男性では「近隣の人にあいさつをしない」「ボランティア活動に参加しない」「自治会に加入しない」の“ないないづくし”の人が大勢いて、人との関わりが弱くなって家に閉じこもるパターンが多く見られる。そうならないように地域ぐるみで取り組むことが大切だ。

 私たちは「あいさつは幸せづくりの第一歩」というスローガンを掲げて、住民間のあいさつを推奨してきた。07年には団地内にある商店街の店舗を借りて、自治会と地区の社会福祉協議会が共同運営する喫茶室「いきいきサロン」をオープン。誰もが気軽に集まれる喫茶として、住民の憩いの場になった。人と人が触れ合う日常をつくる意識を地域全体で持つ。みんなで手を取り合って実践してきた。

 一条真也著『隣人の時代』(三五館・11年)も、地域の人間関係を充実させることが孤独死の予防に役立つと訴える。北九州市で冠婚葬祭業を営む著者は、地域の人が誰でも集まれる「隣人祭り」を08年から積極的に支援。社会に出たがらずに引きこもろうとする人でも「だれかが強引に人前に連れ出す必要がある」と主張し、地域の絆を豊かにすることは、人間を幸福にすることにも帰結すると説く。

 人と人があいさつしあうなどして再び、つながる。孤独死の解決策は至ってシンプルなところにあるのだ。