遺品整理士 思いつなぐ

2012年05月05日読売新聞

最後の弔い、悲しみ共有

 高齢者の孤立死が社会問題になるなかで、生前の思いを大切につなぐ「遺品整理士」が注目されている。

 埼玉県内で初めて資格を取ったリサイクル会社「イズミ」(行田市埼玉)の久保公人(きみひと)社長(41)に、現場の実情を聞いた。

 使い古しのランプ、剣道具セット――。イズミの倉庫には、リサイクルできる遺品が所狭しと並ぶ。2LDKの間取りだと、遺品はだいたいトラック3台分。遺族が整理すれば何日もかかるところを、社員2人が3時間程度でさばく。遺族や故人の思い入れがある物はないかと、細心の注意を払う。机や棚の引き出しを一つ一つ開け「これはどうしましょうか」と聞くことも多い。会社に戻り、回収した遺品から、リサイクルできる品を仕分ける。

 言葉に詰まる現場にも何度か出くわした。故人が長い間横たわっていたためか、畳の一部がへこんで布団に黒いシミが残っていた。部屋はごみだらけで、汚物も処理されていない。すさまじい腐敗臭だ。

 「こんなところで誰にもみとられずに亡くなるなんて」。思わず涙がこぼれた。現場を見た衝撃に耐えきれず、作業を終えた従業員が2人いっぺんに辞めてしまったこともあった。

 依頼主に詳しいことは聞かない。つらい思いがよみがえらないようにという気遣いだ。アルバムにラブレター、義足。人生が凝縮された遺品を手にすると、自然と故人に思いが巡る。

 たんすに入った服のたたみ方で「きちょうめんな人だったのかな」と人柄がうかがえる。今にも壊れそうな本棚に「これだけは捨てられない」とすがる遺族がいた。投げやりに「部屋の小銭を全部拾ってこい」と言われたこともある。

 「気持ちに区切りがつきました」。依頼主からうれしい言葉をもらったことがある。遺品を積み込んだトラックを、霊きゅう車のように見送る遺族もいた。最後の弔いになっている。他人の悲しみを共有できないとダメだ。

 久保さんは、もともと両親と古本店を営んでいたが、2007年にいわゆる便利屋に転業。当時は家具の移動や電化製品の設定、庭の片づけなど、様々な作業を請け負っていたが、次第に遺品整理の依頼が増えるようになった。

 「遺品整理士」の認定制度は、仕事の関係で購読しているメールマガジンで知った。遺品を不法投棄したり、法外な料金を請求したりする悪徳業者も多い。「お客さんが安心して頼めるように」と受講を決めた。

 孤立死などに伴う遺品整理の依頼は、今後さらに増えるとみている。「残念なことだが最後のお手伝いをしっかりとできたらうれしい」と話す。(木村優里)