<セカンドらいふ>孤立する高齢者-老老介護-

2012年04月18日中日新聞

 介護の必要な高齢者らが介護者の急死で連鎖的に亡くなる孤立死は、「老老介護」の世帯にとって最大の心配事の1つ。周囲が異変に早く気づく仕組みが必要だが、プライバシー意識の強い都市部では、近隣と連携することの難しさも見え隠れする。 (杉戸祐子)

 都内の公営住宅の1室。70代後半の女性がベッドに横たわる。7年前に脳梗塞で倒れ、今も半身不随で寝たきりの状態だ。介護保険で最も重い要介護5。判断力が低下し、会話はほとんどできない。刺激になるようにとテレビが大音量で響く中、1日中うつらうつらする状態が続く。

 介護するのは同い年の夫。数時間おきにおむつを交換し、1日3回、胃ろう(胃に管で栄養を送る方法)で栄養をとらせる。合間に自身の食事を済ませ、家事をする。子どもはいるが、地方で家庭を持っており、日常的な行き来はない。ホームヘルパーが週3回、1時間ずつ訪問する。

 糖尿病を患い、聴覚の衰えた夫の不安は、自分が急に倒れたときのこと。「妻は7年前、『体が変』と叫んですぐ気を失った。誰かに知らせる暇もないなら、妻はどうなるのか」

 日中は玄関の鍵をかけず、異変に気づけば誰でも中に入れるようにしているが、夫の外出時と夜間は施錠する。合鍵を持ってほしいと同じ階の数人に打診したが、いい返事はもらえなかった。会えば世間話をし、食べ物をやりとりする間柄だが、「都会ではそれぞれがカプセルに入って暮らしている。さすがによその家に入り、生活の悩みにまでかかわるのは避けたいようだ」と夫は言う。

 団地自治会にも助け合いの仕組みづくりを提案したが、賛同を得られなかった。役所に相談すると、電話回線を使った緊急通報システムを勧められたが、自宅には回線がない。医者からは妻を高齢者施設へ入居させるよう勧められたが、「自分がいる限り自分で面倒みる」と決意は固い。

 夫がたどりついた境地は「自分が倒れないこと。僕が元気に妻を送る」。淡々とした口ぶりで話した。

◆早さが鍵 異変の受発信

 「介護保険は介護は支えるが、悩みを含めた生活を支えてはいない」。特別養護老人ホームで生活相談員として勤務した経験もある中部学院大講師の新井康友さん(社会福祉論)は言う。「この夫婦のような事例は少数派ではない。夫は普通に暮らし続けたいだけなのに、それが難しい社会になっている」

 近隣のサポートについては「合鍵を預けても、異変を知らせない限り入室してもらえない。情報発信が重要」と新井さん。

 京都府福知山市や京都市下京区の一地区では、毎朝玄関先に造花を飾り、夜に取り込むという見守りが行われている。花が出しっぱなしだったり、飾られなければ、近隣が異変を察知できる。「これなら周囲も負担をさほど感じずに続けられ、異変に早く気づける」(新井さん)

 介護者自身の健康管理も大事だ。「自分の食事が後回しになりがちだが、脱水や栄養失調にならないように食べ、体調の悪い日は入浴を控えた方がよい」。健康診断も定期的に受ける。

 また新井さんは、高齢者支援の中心である地域包括支援センターに多様な業務が集中している現状に、「高齢者が生活の悩みを相談し、苦情を言える場所が必要」と指摘する。