遠く離れた老親 ネットで見守り、心つなげる
2012年04月16日日経新聞
離れて住む老親の暮らしぶりには心配が尽きない。しょっちゅう連絡をとるわけではないが、インターネットを上手に活用して、安心を得る遠距離親子が広がっている。子が用意したデジタル機器を、老親たちは意外なほど簡単に使いこなす。ゆるやかな交流は親子の周辺にも広がり、より多くの近親者で老親を見守ることにもなる。
「気がついたら、写真立てに中学と高校に進学した孫2人の制服写真が映し出されていた。さっそくお祝いの電話をかけました」
群馬県で一人暮らしをしている杉村孝子さん(仮名、84)と、2人の息子の家族は、リビングに置かれた写真立てでいつも結ばれている。長男が2年前に贈った「通信機能付きデジタルフォトフレーム」だ。
写真立ては息子家族がパソコンや携帯電話からメールで送ったデジタルカメラの写真を、スライドで次々表示していく。新しい記念写真などに気づいた時、杉村さんは息子たちに電話をかける。
■知らない間に写真増える
実は5年ほど前に通信機能がない製品を長男から贈られた。しかし「同じ写真しか見られないので、すぐ飽きた。今のは知らないうちに新しい写真が増えるのが楽しい」と杉村さん。電話をするきっかけになるのも気に入っているという。
一人暮らしをする高齢者は増える一方。2010年の国勢調査によると、一人暮らしの65歳以上は479万人と、65歳以上の人口の16%に達した。離れて住む子らには、老親の安全を確保するため、どう交流を保つか悩む人も多いだろう。
ただ、仕事で忙しかったり、毎日電話すると迷惑がられたり。間合いの取り方は意外に難しい。その点、携帯電話回線を利用したフォトフレームは「写真を送る側からも文面を書かなくていいので手軽で助かるという声を聞く」と販売するNTTドコモの担当者。同様の製品はKDDIやソフトバンクモバイルも販売している。
■積極的にネット使いこなす80代も
「高齢者はデジタル機器が不得意」という思い込みも禁物だ。積極的にネットを使いこなす80代もいる。たとえば、2人の息子がともに海外で暮らす清水啓子さん(84)が、連絡に利用しているのは無料のネット電話「スカイプ」だ。
スカイプはネットに接続したパソコンやスマートフォン(高機能携帯電話=スマホ)で通話できるサービス。パソコンならテレビカメラとマイクを接続すれば、テレビ電話としても利用できる。相手が地球上のどこにいても、ネットにつながりさえすれば無料で話すことができるのも魅力。「息子たちの元気な顔を見ると安心する。料金の心配もないし」と清水さん。
もっとも息子たちが住むのは欧州とカナダ。時差があるだけに、時間調整は苦労しているという。「テレビ電話だと疲れた顔まで見られてしまう」と清水さん。元気でいなくてはならないという思いは、気持ちの張りにもなる。
■SNSなら時間気にせず連絡可能
相手と連絡を取る時間が気になるなら、フェイスブックやミクシィといった交流サイト(SNS)を活用する手もある。通話と違い、親・子・孫・親戚らで連絡しあったり、情報を共有したりできるので、老親を兄弟全員で見守る場合にも役立ちそうだ。
ライターの井上真花さん(50)は、独立した息子と娘との連絡に、SNSを活用している。井上さんの実家に帰省するときの日程調整もスムーズに進むという。
関係に思わぬ広がりが生まれることもある。親子関係に特化したSNSサービス「ころぐ」を始めた西川伸一さん(30)は、「SNSを通じ、自分と妻の両親同士が連絡を取り始めた」と話す。今では孫へのプレゼントの費用分担なども連絡しあっているという。
もちろん、スカイプやSNSは老親の安否をすぐに確認できるものではない。安否確認を重視する場合は、電気ポットを利用した記録が1日に2回メールで届く「みまもりほっとライン」(象印マホービン)、全地球測位システム(GPS)端末で所在地を突き止める「ココセコム」(セコム)などのサービスもある。
ただ、そこまでは必要ないという人も多いだろう。「ネットサービスの特性とパソコンに関する知識を考えて選べば、離れていてもコミュニケーションは深められる」と家電ジャーナリストの安蔵靖志さん。「相手が使えると思うサービスより、1段階わかりやすいものを選ぶのがポイント」とアドバイスする。