孤立する高齢者<下> 公的なアポなし訪問で救出

2012年04月11日中日新聞


 血縁や地縁がなく、介護保険などの制度とも結び付かずに孤立する高齢者。前回(4日付)、孤立が潜在化している実態を報告したが、閉ざされた家の中で何が起きているのか。事態を改善する有効な対策はあるのだろうか─。 (杉戸祐子)

 「初回の相談時点で生活や健康が極端に悪化しており、緊急性の高い事例の経験がある」が65%-。立命館大の小川栄二教授(社会福祉援助技術論)らが2009年、近畿地方(大阪府、兵庫県など2府4県)の全地域包括支援センター560施設を対象に行った調査の結果だ。具体的には「ごみ屋敷状態」「尿や便の汚染の中で寝たきり」「脱水状態で緊急受診が必要」などの回答があった。

 さらに「できる限り早期に手だてが必要な事例の経験がある」が30%。つまりほぼすべての施設が、緊急または早期の対応が必要な事例を経験していた。また、7割近くが「担当地域で孤立死を経験した」と回答した。

 小川教授らによる、介護支援専門員(ケアマネジャー)を対象とした調査(5年)でも「初回面接で高齢者の介護・生活問題が深刻で対処に困った経験がある」のは73%。さらに「介護や援助が必要にもかかわらず本人が拒否した例」を71%が体験していた。

 小川教授は「援助の必要な高齢者が家に潜伏し、生活が悪化している状態はレアケースではない」と指摘し、「発見されないまま潜在化すれば、緊急事態となって初めて顕在化するか、孤立死の状態で発見される可能性がある」と分析する。

◆緊急性高い「潜伏」 日常的に

 対策として注目されているのが「アウトリーチ」だ。英語で「手を伸ばす」という意味で、福祉などの現場では「関係者が出向いて支援する」という意味合いで用いられる。

 東京都港区では昨年6月から区内の1部地区で、介護保険を利用しておらず、区の高齢者サービス(家事援助、配食、緊急通報システムなど)にも無縁の独り暮らしの高齢者をリストアップし、全戸訪問する「ふれあい相談員」の取り組みを始めた。

 港区によると、対象地区に住む独居高齢者は約2,700人で、うち約1,700人が訪問の対象。昨年12月末までの7カ月間で約900人を訪問した。問題のないケースが多かったが、介護保険の認定申請に結び付いたケースが7件、受診した例が4件、ごみの訪問収集を行った例が3件あったほか、高齢者サービスの利用を開始した例が31件あった。

 地域包括支援センターで看護師として勤務していた相談員の近藤朋美さん(53)は「訪問して嫌がられたことはほとんどなく、自分から周りや制度とつながる意思のない人を結び付けられるケースがあった」と話し、「引きこもりがちな高齢者が自分で相談に出向くのは難しい。相談員がアポなしで訪ねるのは非常に有効」と実感を語る。港区では今月から全区域で実施する。

 小川教授は「専門職が接触すれば健康や生活の状態が把握しやすいし、継続的に粘り強くかかわれば、解決に結び付く」と力を込める。さらに「地域の見守り活動などで住民同士が顔の見える関係を築くことに加え、引きこもりがちな高齢者には、公的な専門職による戸別訪問を組み合わせる必要がある」と指摘する。