孤立する高齢者<上> 問題・不安抱え潜在化

2012年04月04日中日新聞

 相次ぐ高齢者の孤立死。防ぐには周りの目が不可欠だが、親族や地域とつながりを持たず、介護保険や生活保護などの制度も利用していない人も多い。介護保険制度が今月改正され、国は高齢者が地域で暮らし続ける体制づくりに注力するが、孤立の実態は-。 (杉戸祐子)

 「介護保険サービスでヘルパーに家に入ってほしいのだが…」。東京都内の会社員男性(53)は、要介護2の認定を受けている独り暮らしの母親(84)についてこう嘆く。

 母親は脳梗塞の後遺症で脚が不自由。男性は車で20分ほどの距離に住み、週に数回様子を見に行くが、食材が尽きてバナナで空腹をしのいでいることも。ホームヘルパーによる買い物や掃除などの援助を受けるよう何度か勧めたが、母親は「他人に自宅に入られたくない」「対応が面倒」と受け入れない。

 民間業者の配食サービスを頼んだこともあるが、数カ月でやめてしまった。男性は「世間と定期的に関われば刺激になるし、家族も安心なのだが…」と悩みを深めている。

 援助の必要な高齢者を社会で支えるのが介護保険制度だが、利用者には不安がつきまとう。第一生命経済研究所の調査(18~69歳の男女3000人対象、2010年)では、「満足なサービスが受けられるか不安」(43%)、「外部の人が家庭に入ることに抵抗感」(31%)などの回答があった。制度開始直後の01年調査とほぼ同じ結果だった。

 「介護保険サービスや生活保護などを利用せず、孤立状態にある高齢者は大量にいる。家族や地域とのつながり方が変わる中で、その潜在化が深刻になっている」。明治学院大の河合克義教授(社会福祉論)は指摘する。

 同教授らが昨年、東京都港区の独り暮らしの65歳以上の全男女5656人対象の調査で、「病気など緊急時にすぐに支援してくれる人がいるか」の問いに、17%が「いない」と答えた。男女別では男性が29%、女性が15%と男性が多い。独り暮らしの高齢者男性の3、4人に1人が孤立状態といえる。「正月三が日を過ごした相手」では、全体の33%が「独り」と答えた。

 介護保険サービスは「利用していない」が82%。要介護認定の申請をしていない人が半数以上だった。区の福祉サービス(緊急通報や配食サービスなど)は63%が利用なし。趣味のサークルや自治会など社会参加活動は47%が不参加だった。

 経済状況を見ると、年収が単身高齢者世帯の生活保護基準の目安となる150万円を下回るのは全体の32%で、実際に生活保護を受給しているのはその21%。河合教授は「生活保護基準以下の生活をしている独り暮らしの高齢者が多数いるが、その八割は、生活保護と無縁の生活をしている」と話す。

 同教授らによる横浜市鶴見区での調査(06年)でも、緊急時の支援者がいない独居高齢者は27%で、そのうち介護保険サービスの利用者は10%。独居高齢者全体の利用率は15%で、支援者がいない人の方が利用率が低かった。

 もちろん、高齢者の誰もに援助が必要なわけではない。自力で安定した生活を送る高齢者もいるが、河合教授は「孤立している高齢者は問題を抱えながらも控えめで、介護保険などの制度利用とは縁遠い生活態度の持ち主だ」と、実態が表面化しない理由を指摘する。