孤立死 発していた微弱なサイン
2012年03月31日朝日新聞
首都圏で家族の孤立死が椙次いで明らかになった。それぞれの家族が出していたわずかな「サイン」をすくい取れなかったのはなぜか。
支援拒否…名簿提供は同意
横浜市旭区の民家で昨年12月、病死した親子が見つかった。小児まひや重度の知的障害のある息子(44)を介護した母親(77)は周囲の支援を拒否していたという。しかし、かすかなSOSも発していた。
最寄り駅から10分ほど。戸建て住宅が連なる丘陵地に家族は29年前、2階建ての家を建てた。住民らによると、町内会に入らず近所付き合いは薄かった。
旭区や息子が通った福祉施設によると、自営業の父親が昨夏亡くなると、息子は週4日ほど通った施設に顔を出さなくなった。食事も着替えも母親が用意した。家では車いすが使えない。息子は正座をして手を使って移動し、2人は1階台所のこたつで寝ていた。
旭署によると、母親は昨年11月末ごろ大動脈瘤破裂、息子は12月5日に呼吸不全で死亡。翌6日、職員とともに遺体を見つけた施設長は「『私が息子の面倒を全部みる』という母の思いにかなわなかった」と話した。
母親にも不安はあったようだ。昨年11月3日、旭区は障害者や要介護の高齢者がいる世帯に、障害者ら災害時要援護者の名簿を民生委員に提供する是非を尋ねた。母親は同意した。
旭区は11月末までの回答を集計し、12月15日、民生委員のグループに名簿を提供。担当の民生委員は年明けに親子を訪ね、近隣住民から死亡を知らされた。
個人情報保護の壁
後手に回った背景に、個人情報保護がある。横浜市は2007年から民生委員や町内会に名簿の提供を始めたが、本人の同意が前提だった。同意率は市内全体で5割ほどにとどまる。
個人情報を出したがらない風潮は民生委員の活動も妨げる。横浜市が10年、2千人以上の民生委員にアンケートすると85%が「情報が集まらない」と訴えた。
横浜市は今年度、民生委員に守秘義務があることを理由に、75歳以上の単身者の名簿を本人同意なく民生委員に提供するモデル事業を一部地域で始めた。4月以降は市内全域に広げる。
だが、2人世帯や障害者のいる世帯は対象外だ。ある職員は「障害のある家族を他人に教えたくない人は多い」と指摘する。
東京都立川市のマンションの一室で2月、この部屋に住む母親(45)と知的障害のある息子(4)が遺体で見つかった。立川署は、母親が病気で急死し、世話を受けられなくなった息子が衰弱死した可能性が高いとみている。
部署間で連携せず
市によると、母子は保護者の急病などの際に利用する緊急一時保育に申し込み地元の保育所に息子を預けていたほか、会員登録をした上で有償ボランティアの会員に子守をしてもらう「ファミリーサポート」も利用。
昨年6月からは月に1度、紙おむつ支給サービスを受けていたが、今年1月、市の委託業者が母親と連絡が取れないことを市に相談していた。
市が公表した検証の中間報告では、母親が頭痛で通院するため子守のサービスを利用していたことも分かった。市によると、これらのサービスはすべて担当課が異なり、部署間で母子に関する情報交換などの連携はしていなかつたという。
今月7日には、95歳と63歳の母娘の遺体が同市内の一都営アパートの一室でみつかった。応答がないと住民から連絡を受け、自治会長は2月末、アパートを管理する都住宅供給公社に連絡。今月2日には公社から市に情報が伝わった。公社職員は現地に2度出向いたが、異臭がしないなどの理由から入室を見送った。市は民生委員に連絡したが「立ち入りの緊急性は公社の判断と考えていた」と互いに様子見の姿勢で、立ち入りまで約1週間を要していた。(曽田幹東、多田晃子、北沢拓也)
■孤立死の事例(日付は発見日)
昨年12月6日 横浜市旭区で母親(77)と障害のある息子(44)
今年1月12日 北海道釧路市で妻(72)と認知症の夫(84)
同20日 札幌市で姉(42)と知的障害のある妹(40)
2月13日 東京都立川市で母親(45)と知的障害がある息子(4)
- 同20日 さいたま市で60代の夫婦と30代の息子
同月下旬 原発事故で緊急時避難準備区域に指定されていた
福島県南相馬市原町区で、認知症の母親(69)と
持病のある長男(47)
3月7日 立川市で認知症の母親(95)と娘(63)
同11日 東京都足立区で男性(73)と女性(84)
同14日 埼玉県川口市で母親(92)と息子(64)