洗濯物にほこりよけも さいたま親子3人孤立死

2012年03月25日埼玉新聞

 さいたま市北区のアパートで、家族とみられる3人がミイラ化して死亡しているのが見つかってから1カ月が過ぎた。同じ部屋に10年以上暮らしながら自ら地域と関わった様子はなく、出身地とみられる秋田でも、ひっそりと生活。覚悟の末の「孤立死」だったとの見方もあり、識者は電気、ガス料金などの滞納情報が行政に伝わる制度をつくるよう求めている。

 3人は2月20日、死後約2カ月で布団に横たわっているのが見つかった。死因は不明。男性=当時(64)=と妻=同(63)、長男=同(39)=とみられるが、身元特定に至っていない。

 現場のアパートに入居したのは11年前。住民登録はなく、周辺住民らは、男性が散歩する姿や長男が作業着姿で車に乗って行き帰りするのを見掛けるぐらいで、3人暮らしということも知らなかった。

■突然の失踪

 県警は、3人が2001年冬に秋田県大館市から上京したとみている。当時を知る近隣住民らは「もの静かで、自分からしゃべる人たちではなかった」と口をそろえる。ここでも周囲とほとんど関係を持たず、ある日突然姿を消した。自宅はその後、競売で売却された。

 捜査関係者によると、男性は同郷の知り合いを頼って埼玉に。県内の建材会社で長男と内装の下請けをしていた。男性は数年前に仕事を辞め、長男は昨年5月ごろまで働いていたとみられる。

 入居当時のアパート管理会社社長が男性と最後に会ったのは約1年前。「腰を悪くして仕事を辞め、今は息子が働いている」と聞き、「『息子がいるならいいじゃない』と励ましたけど、こんなことになるなんて…」とうなだれる。

■諦め?

 家賃滞納が始まった昨年8月以降、長男が使っていた車は売却され、妻はほとんど面識のない近所の女性に借金を頼む状態に追い込まれた。電気とガスは昨年12月ごろ止められた。だが、さいたま市に生活保護などの公的支援を求めることはなかった。

 遺体発見時、室内に食べ物はなく、3人のそばには水の入ったペットボトルがあった。現金は一円玉数枚だけ。丁寧に畳まれた洗濯物の上には、ほこりよけの布が掛けられていた。捜査関係者は「生きることを諦め、まるで覚悟して亡くなったようだ」と振り返る。

 貧困問題に取り組むNPO法人ほっとプラス(さいたま市)の藤田孝典代表は、さまざまな理由で住民登録しない人は多いと指摘。同市は3月末までに対策案をまとめる方針で、藤田さんは「今回の事例をどう生かすのか。公共料金滞納が続いたとき、インフラ事業者が情報を行政に伝える『ゲートキーパー制度』を作るべきだ」と訴えた。