安否照会 5日後の発見 また孤立死 生きぬ教訓 /東京・立川

2012年03月09日Sankei EX

 東京都立川市羽衣町の都営アパート一室で3月7日午後6時10分ごろ、95歳と63歳の母娘とみられる2人が死亡しているのが見つかった。警視庁は、認知症の症状があった母親を介護していた娘が何らかの原因で死亡し、連鎖的に母親も衰弱死した「孤立死」の可能性があるとみている。立川市内では先月(2月)中旬にも孤立死とみられる母子が見つかったばかり。にもかかわらず、市は安否照会を受けてから室内を確認するまでに5日間を要していた。

 ■テレビはついたまま

 現場はJR立川駅から徒歩約10分の住宅街にある8階建てアパートの7階。認知症の症状があった母親の外出を防止するためか、玄関のドアノブは内側からひもで縛られ、テレビや台所の明かりはついたままだった。娘とみられる女性は居間のソファのわきでうつぶせに倒れ、母親とみられる女性は部屋奥の和室に敷かれた布団の横であお向けの状態で見つかった。

 立川署によると、娘とみられる女性は死後7日~半月が経過していた。母親とみられる女性は死後7~10日が経過、司法解剖の結果、胃の中は空だった。目立った外傷や室内に荒らされた形跡はなかった。

 ■都の住宅公社に相談

 今回、異変に気が付いたのは周囲の住民だった。毎月の自治会費が支払われず、郵便物がたまっていたことを不審に思った住民が2月下旬、自治会長の男性を通じてアパートを管理する都住宅供給公社に相談。訪問した公社職員はこの世帯が2人暮らしだったことなどから、立ち入る状況ではないと判断したという。

 立川市は公社から今月(3月)2日に安否照会を受けたが、女性らは介護サービスを利用しておらず、市は2人の情報を把握していなかったという。

 市が動き出したのは5日後の7日。民生委員の女性(59)が、地域の高齢者の相談窓口となっている地域包括支援センターを訪れ「姿が見えない。何か情報が入っていないか」と尋ねたことがきっかけだった。

 ■高齢者世帯は後回し

 今年に入り、病気や障害がある家族を1人で支える2人暮らし家庭で、孤立死とみられるケースが相次いでいる。

 札幌市では1月、病死した姉(42)と、凍死した知的障害を持つ妹(40)が見つかった。また、北海道釧路市のアパートでは認知症の夫(84)と妻(72)が死亡していた。

 さらに2月中旬には、今回のアパートと同じ町内のマンションで女性(45)と知的障害を持つ息子(4)が孤立死しているのが見つかったばかりだ。

 この問題を受けて、立川市は孤立死について対応策を協議中だったが、母子家庭のケースなどに特化し、高齢世帯については「長中期的な課題」としていた。市高齢福祉課の土屋英真子(えまみ)課長は「情報提供を依頼してきた公社が安否確認を行うと思っていた。対策を早急に検討する」と話した。

 民生委員の女性は「安否を気遣っても、自宅の中に入ることはできない。どうすればいいのか」と言葉を詰まらせた。

       ◇

 ≪家族や地域の縁が希薄≫

 「無縁社会の正体」などの著書があり孤立死問題に詳しい同志社大学の橘木俊詔(たちばなき・としあき)教授(経済学)の話「今回の問題は家族や会社、地域の縁が希薄になったことに尽きる。地方のように多少の地縁が残っていれば、心配して訪問する住民もいて助かった可能性はある。高齢化社会に突入し、今後も同様のケースは後を絶たないだろう。ただ、防止策は難しい。郵便受けの新聞がたまるなどのシグナルがあったとしても、自らの生活に追われた地域住民に察知することを求めるのは合理的ではない。自治体がマニュアルを作成して示すなど、制度化していくことも考えられる。同時に、社会保障を充実させる必要がある。今は都会で民生委員のなり手が少なくなり、異変に気付いても踏み込む権限もない。見回りをしてくれる人に権限を与え、十分な手当を与えることも検討していく必要がある」

       ◇

【東京都立川市の孤立死をめぐる経過】

2月13日        マンションで死後2カ月の母親と、障害を持つ次男が遺体で発見される

2月20日ごろ      都営アパートで、郵便物がたまっている部屋を近隣住民が自治会に連絡

  29日        自治会長が東京都住宅供給公社(JKK)に「この部屋に住む母娘と連絡が取れない」と通報

3月1日         JKK職員が訪問

  2日         JKKが市に安否確認を依頼

  6日         JKK職員が再度訪問

  7日午前       民生委員が「母娘の姿が見えない」と市に連絡

午後5時15分~6時ごろ 訪問した市職員が在宅していると判断し、警察と消防に通報

午後6時10分ごろ    消防隊が母娘の遺体を発見