孤立死防止:再発防げ 見逃された「サイン」、行政と業者連携へ

2012年03月06日毎日新聞

 さいたま市と東京都立川市で先月、相次いで明らかになった「孤立死」。亡くなった人たちと地域社会のつながりはほとんどなく、死後1~2カ月も発見されなかった。両市や厚生労働省は再発防止策の検討を始めたが、オートロックマンションの普及や自治会加入率の低下などが進み、対策を難しくしている。【平川昌範、西田真季子、中川聡子、石川隆宣】

 ◇滞納など察知を
 孤立のサインはあった。さいたま市の親子宅では、昨年7、8月分から水道料金が支払われなくなった。
 市水道局の委託業者は10月以降8回訪問し、11月には女性が「夫が入院しているので支払えるか確認して連絡する」と約束したが、その後は応答がなく「不在」と判断。市の福祉部門に連絡しなかった。

 12月ごろには料金滞納で電気とガスが止まったとみられる。だが、その情報も行政に伝わらなかった。東京電力と東京ガスは「個人情報やプライバシーの問題があり、本人の了解なく情報を出せない」との立場だ。一家は市に住民登録せず、自治会にも加入しておらず、民生委員は一家の困窮を「何も知らなかった」と話す。

 立川市の母子は10年4月に大阪から転居し、近所づきあいはほとんどなかった。知的障害がある次男は介助が必要だったが、母子は10年末に療育訓練施設の利用をやめ、11年3月には決まっていた保育所の入所も辞退。行政との接点は、障害児家庭を対象にした毎月のおむつ支給サービスなどに限られた。今年1月中旬に委託業者が訪問した際に応答がなく、市はケースワーカーを2回派遣したが、オートロック式のマンション内に入れず、異変に気付かなかった。水道や電気の使用状況も調査されなかった。

 市の担当者は「自ら行政との関わりを避ける家庭にどう接触するかが課題」と頭を悩ませる。「立川市手をつなぐ親の会」の野々久美子さんは「障害児を持つ親は、親子だけの世界に閉じこもる傾向がある。施設や保育所に入るのをやめた時点で危険なサイン。行政は障害や子育てに詳しい職員を配置し、支援につなげる態勢作りが必要」と指摘する。

 厚労省は先月23日、電気・ガス事業者などとの連携を強化し、保護が必要な困窮者の把握を求める通知を都道府県に出した。同様の通知(事務連絡も含む)は00年4月以降6件目になる。厚労省の担当者は「結果として防げていない」と話し、通知行政の限界が露呈した格好だ。
 困窮者の情報が民生委員に伝わらないケースも問題視されている。10年9月の厚労省の抽出調査で生活保護受給世帯や障害者世帯の情報を伝えていた自治体は85%。提供しない理由として65%が「個人情報保護条例で禁止」を挙げたほか、35%が「従来からしていない」、20%が「苦情が予想される」と回答し「事なかれ主義」もにじむ。

 さいたま市は、水道料金の滞納者宅を訪問する際に▽電気やガスが止められている▽郵便物がたまっている▽玄関付近にほこりがたまっている--などのサインに注意し、困窮が疑われれば福祉部門に情報を上げる仕組みを検討している。立川市も検討会議を設置し、孤立家庭の洗い出しや再発防止策の協議を始めた。

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 ■ことば

◇二つの孤立死の概要


 東京都立川市のマンションで2月13日、無職の母親(45)と次男(4)の遺体が発見された。1~2カ月前に母親が病死し、知的障害がある次男が助けを呼べず、衰弱死したとみられる。2月20日には、さいたま市北区のアパートで60代の夫婦と30代の息子とみられる3人が死亡しているのが見つかった。死因は特定されていないが、室内に食べ物はほとんどなく、やせ細り、死後2カ月程度たっていたとみられる。