ご近所の無事見守る 携帯の開閉・歩数をキャッチ /神奈川・座間

2012年02月08日 東京新聞

 独り暮らしのお年寄りや高齢者だけの世帯が増え、安否確認や日常の見守りが地域の重要な課題になっている。神奈川県座間市で、携帯電話を活用し、住民同士で見守り合う活動の実証実験が行われている。互いに負担感の少ないつながり方を模索する現場を訪ねた。 (杉戸祐子)

 「ご近所が生活を見ていてくれる。心強いよね」。同市の吉井仁三郎さん(84)は紺色の携帯電話を手にこう話す。妻を亡くして約20年、独りで暮らしてきた。息子は都内に住み、ヘルパーが週1回訪ねてくる。「考えすぎないようにしているが、体に何か起きたらどうなるかは心配」と明かす。

 実験では吉井さんが携帯を持ち歩き、1日の歩数や携帯の開閉回数などが、近所の嶋田和子さん(73)ら三人の携帯に毎日メールで配信される。歩数や開閉が減れば、見守り手は異変を察知し、対処できる仕組みだ。

 実験は同市社会福祉協議会が実施。NTTドコモの携帯と見守りシステムを使い、昨年末から今月14日まで行われている。60~80代の男女46人が参加。単身者を複数で見守ったり、高齢者同士が互いに見守り合うなどしている。同社協の小林孝行主事(33)は「緊急通報ではなく、日常的な見守りの一つとして可能性を探る」と説明する。

 孤独死が社会問題化し、各地で声かけなどの見守りが広まっているが、やり方によっては双方の負担になる場合もある。携帯による見守りは離れて暮らす親族間で使われることが多いが、「遠くで異変を察知してもすぐには駆けつけられないが、近所なら対処しやすい」と小林主事は利点を話す。

 吉井さんは携帯を初めて持った。誤って電源を切った際は、自宅の電話から嶋田さん宅に連絡し、会って復旧法を教えてもらった。「近くで助けてもらえてありがたい」。嶋田さんは「携帯を確認するだけなので負担感はない。近所で気には掛けてきたが、大変ではない形で役に立てるのは良い」と話す。

 このほか80代の女性が2月上旬、起床後に頭痛を覚えたため、見守り担当の女性に電話をかけて訪問してもらい、「不安な気持ちが楽になった」と話したケースもあった。

 課題も浮かんだ。ある70代の女性は携帯電話を持ち歩かず、見守り担当者がメールを確認すると歩数が少ないことが多かった。「家に様子を見に行ったり、親しい相手に聞いて無事を確かめた。仕組みを何度も説明したが、携帯自体になじめなかったようだ」と担当者は振り返る。

 実験に協力した相模が丘二丁目地区社協の神藤奎二会長(74)は「相手が今日も元気に動いているとわかり、生活の見守りには有効」と評価する一方で、普及には「費用負担や急な異変があったときの対応が心配」と課題を指摘する。NTTドコモの担当者は「どの機能が有効か、ニーズを検証したい」と話す。

 実験の評価に当たる田園調布学園大学の村井祐一教授(福祉情報・地域福祉)は「地域の住民同士がつながるきっかけになる仕組み。生活を緩やかに確認する形の見守りを行いたい地域の選択肢になる」と評価し、「携帯電話は個人をつなぐだけでなく、地域コミュニティーを支援するツールとして進化を始めた」と話している。