【過疎はいま】高齢化 都市に潜む

2012年02月02日 朝日新聞

◆市街地編(上)
 JR鳥取駅から1キロほどにある住宅街、醇風(じゅん・ぷう)地区。雨模様の1月上旬の正午すぎ、2階建て民家。一人暮らしの女性(90)が窓際のこたつに座り、プラスチックの弁当箱のふたを開けた。
 煮込んだ大根、5ミリ大まで刻んだ白菜のゴマあえ。まだ温かい。朝に地区のボランティアが公民館で作り、民生委員が届けてくれた。
 「持ってきてくれるのは、本当にありがたい」
 月に1度、地区の社会福祉協議会が見守りを兼ねて200円で弁当を配る「ふれあい型食事サービス」。同地区には独居の高齢の住民が300人以上おり、約100人がサービスを利用している。

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 女性は右肩に痛みがあり、重い物は持てない。「年相応にあちこち痛みまして。出歩くのはおっくうで」。戦争で夫を亡くした。一人息子が大学進学で上京後、50年ほど一人で暮らす。神戸市に住む息子から一緒に住もうと誘われるが、「やっぱり住み慣れた場所がいい」。
 災害時の避難所の小学校は直線で約300メートル。でも地震があれば、近くの公園で木に寄りかかるつもりだ。「学校まで行くのに大変。歩きも鈍くて、危ないからねえ」
 同じく鳥取駅から1キロほどの富桑地区でも、約120人の高齢の住民が1人で暮らす。地元有志は鳥取大学の協力を得て、生活実態の聞き取り調査を始めた。「データだけ見ると、中山間地と同じくらい少子高齢化が進んでいる場所もある」と、メンバーの西川秋夫・市西人権福祉センター長。今年度中に調査結果をまとめ、新年度から地域で必要な支援をしていく。

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 鳥取市によると、JR鳥取駅周辺から鳥取城跡周辺の約210ヘクタールの中心市街地の人口は、2011年9月末で1万2496人。市の中心部でも15年間で797人減少した。高齢化率は27%、15歳未満率は12.2%で、県全体の高齢化率26.4%、15歳未満率13.3%(ともに昨年10月現在)より、少子高齢化が進む。
 米子市役所を中心とした約300ヘクタールの人口は、11年に1万1342人で、10年間で1332人減。1割以上の減少率だ。高齢化率は05年から30%を超え、昨年は33%にのぼった。
 中心市街地では、空き家も増えている。県によると、鳥取、米子、倉吉、境港4市の人口集中地区で、08年の空き家率は18.4%。10年間で3.7ポイント増え、ほぼ5軒に1軒が空き家の計算だ。
 県は対策に動き出したが、市街地の過疎化は、担当課もない。昨年末に関係部局を横断したチームを作り、現場を訪ね、現状把握のための意見交換を始めたばかりだ。
 過疎問題に詳しい竹川俊夫・鳥取大准教授(社会福祉学)は、「県内の市街地でも孤独死が起きている。高齢化が進み、今後も増えると予測される」と指摘する。交通の便などが恵まれている分、市街地の生活困難者は注目されにくいのが現状だという。
 さらに、自治会に入らずにアパートで暮らしているケースなどもあり、支援が必要な人がどこにいるのか、どうやって見守りをすればいいのかわかりにくい。「人間関係が希薄になっている人たちに、いかに地域のつながりに入ってもらうかがポイントになる」と話す。

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 過疎・高齢化の問題を抱えるのは、中山間地だけではない。市街地も人口減や高齢化が進み、生活に支障が出始めている。街の中で、支えられて暮らす人たちを訪ねた。(西村圭史)