買い物弱者、新市場生む 新生北関東 流通業の最前線(2)
宅配・移動販売…開拓に熱

2012年02月01日 日経新聞

 「主に高齢者向けなので薄味が基本」「地域は順次広げます」。いばらきコープ生活協同組合(茨城県小美玉市)は3月下旬に茨城県内で始める夕食宅配事業に向け、メニューなどの打ち合わせに余念がない。宅配を希望する高齢の組合員は多く「独居家庭の見守りになる」などの意見が寄せられてきた。こうした声が職員を駆り立てる。

 米飯におかずがつく弁当とおかずのみの2コースを用意し、和洋食など毎日異なるメニューとする。弁当は1食あたり530円と手ごろだ。火曜日までに申し込むと翌週の月~金曜の夕方までに届ける。「家から出られない顧客を支援する」(有賀誠夕食宅配担当課長)のが狙いだ。守谷市と取手市の一部で始め、夏以降、龍ケ崎や牛久、つくば、水戸市周辺に拡大。来年3月までに1日1500食に増やす。

 高齢化や小売店の撤退、公共交通の衰退で食料品や日用品の購入に困る「買い物弱者」が増えている。農山村から都市にも広がり経済産業省の推計で全国に600万人いる。流通事業者が宅配強化などで需要取り込みに動く。

■柔軟に注文対応

 「車の運転ができないのでありがたい」。栃木県を中心にホームセンターを展開するカンセキが2010年に始めた高齢者向け宅配サービス「スマイル便」。900種類に上る商品をカタログで選べ、群馬県などを含む11店舗で月約200件の注文が舞い込む。退職後ガーデニングなどを始めた人も目立ち「レンガを1度に100~200個購入する顧客もいる」(益子和也店舗運営部長)。

 「寒くて眠れない。きょう電気毛布を届けて」。注文翌日に配達するのが原則だが、急を要する相談なら当日も対応する柔軟さが人気を支える。

 生活協同組合コープぐんま(群馬県桐生市)も宅配を強化する。指定の個人商店などで商品を受け取る「地域ステーション」を3月末までに現在の1.3倍の250カ所に拡大。毎日電話注文を受け、個々のステーションから家庭に商品を配達するサービスを13年にも始める方向で検討中だ。

 来店が無理なら売り場が動けと、移動販売も相次ぐ。コンビニエンスストアのセーブオン(前橋市)は4月、群馬県富岡市で乗り出す。弁当のほか、マスクなどの日用雑貨をトラックに積み、週5日間、5地区程度を回る。価格は店舗と同じで、1台あたり月500万円の販売が目標だ。

 セブン―イレブン・ジャパンは2月、茨城県小美玉市の町内会と連携し同様のサービス「セブンあんしんお届け便」を開始。北関東で3例目となる。

 いばらきコープは昨年2月に水戸市周辺で移動店舗事業をスタート。食品スーパーのカスミは電気自動車のトラックを使った移動スーパーの実験を3月に茨城県つくば市で始める。

 インターネットで注文を受け付ける方式も定着してきた。ヤマト運輸は茨城県城里町で試行中だが春をメドに県内全域に広げる。地場の商工業者と連携し、ネットや同社直営店の情報端末で注文を受けて宅配する。

■コスト高課題

 宅配や移動販売は配送費などがかさむ。セーブオンは従業員1人が運転から販売まで手掛ける低コスト運営を導入する。いばらきコープは近県の生協では業者委託が多い配達を自前で実施しコストを抑える。ただ、「収益を上げるのは容易ではない。宅配で収支を黒字化して軌道に乗せるには2年近くかかりそうだ」(同コープ)と明かす。

 収益確保への課題は残るものの、高齢化や人口減で買い物弱者から生まれるニーズは着実に広がっており、知恵の絞りどころといえそうだ。