交流サイトやメール 高齢者、ネットでつながる
緊急時に備え 孤立防ぐ効果
2011年09月28日 日経新聞
インターネットの交流サイト(SNS)やメールなどを使って、家族や友人とコミュニケーションをとる高齢者が増えている。いざというときの備えに始める人が目立つほか、孤立を防ぐためにネットを活用する取り組みもある。
ツイッター活用
富山県に住む土田健治さん(78歳)は、新聞を毎朝読んだ後、パソコンを開ける。2日に1回はミニブログ「ツイッター」に新聞の感想などを書き込む。岡山県に住む長男の発言も見られるように登録しているので、状況がすぐわかる。「災害時の連絡手段にも使えると聞いた。活用したい」と話す。
震災後、60代以上のシニアが、「ツイッター」や友人間の交流ができる「フェイスブック」など、インターネットを活用する動きが目立っている。
地域団体などのパソコン利用を支援する特定非営利活動法人(NPO法人)「PCTOOL」(富山県南砺市)では、シニア向けにフェイスブックの使い方を教え始めた。代表の能登貴史さんは「東日本大震災で、電話や携帯メールと異なり、利用者急増の影響を受けにくかったフェイスブックは、登録して使い方を知っておけば、いざというとき違うはず」と話す。
シニアのパソコンサークル「いちえ会」(東京都目黒区)でも、ツイッターの利用頻度が増えたという。代表の大林依子さん(62歳)は「放射線や計画停電の情報を知るために、自治体の発言を、登録して見る人が多かった」と話す。
博報堂生活総合研究所が5月に行った調査では、震災後「携帯電話やパソコンなどでメールをする友人がいる」と答えた60代が、震災前の60.6%から69.7%に急増した。吉川昌孝主席研究員は「災害時の連絡方法としてインターネットが注目された。特にシニア層は身を守るために取り入れ始めているのではないか」とみる。
高齢者のインターネット利用は防災目的に限らない。電通総研と東京大学の橋元良明教授の共同研究では、60代でパソコンや携帯電話を使ってネットを利用する人の割合は、2010年に48.8%と、およそ2人に1人になっている。ネット利用の利点としては、「世の中の情報が早く入手できる」(49%)、「地図機能で知らないところに行くのが楽」(49%)、「友人・知人とのコミュニケーションが増えた」(38%)などをあげる人が多い。
一般に、高齢になると足腰が弱くなる人も多く、日常の付き合いの範囲も限られる。ネットの利用は、こうした制約を補い、生活の質を向上させる可能性があることに、高齢者が気づき始めたようだ。
仙台市に住む佐藤怜子さん(80歳)は、息子家族や娘家族との情報交換にフェイスブックを使う。大学生の孫娘たちとの情報交換もフェイスブックだ。「来月から息子が米国転勤になったので、今度はネットでテレビ電話ができるスカイプをやりたい」と張り切る。
日常生活楽しく
メールの交換によって、孤立を防ぐ動きもある。
「独り暮らしでも、毎日パソコン上で人けを感じられれば、日常生活が楽しくなる」と話すのは、「コンピューターおばあちゃんの会」(東京都世田谷区)の代表、大川加世子さん(81歳)。全国の約250人の会員は毎日、全員のメールアドレスを登録したメーリングリストで日々の出来事を雑談し合い、パソコンの勉強会も開く。
4月に入会した鎌形広さん(68歳)は入会して約5カ月間で3千通ほどのメールが届いた。「毎日メールが届き、夫婦2人の静かな生活が変わった。先日は他の人が楽しかったとメールに書いていた所沢航空発祥記念館に行った」と話す。
一般社団法人シニア社会学会の袖井孝子会長は、「独り暮らしの高齢者が増える中、シニア同士のネットワークづくりが孤独死などのトラブルを防ぐ。インターネットを使えば、実際に会うのが難しい相手とも頻繁に連絡が取れるため、ネットワークを広げやすい」と話している。