東峰村、全世帯に光ファイバー網 独居高齢者の見守りにも/福岡

2011年09月07日 西日本新聞

 光ファイバー網を整備し、通信・放送分野でのデジタル化を遂げた東峰村。全約900世帯に引いたブロードバンド(高速大容量)回線を活用して村営ケーブルテレビ放送を流し、情報の共有化を図る一方で、独自の独居高齢者の見守りシステムも稼働させた。果たして高齢化が進む過疎の村の“光"となり得るか。取り組みに注目した。

■危機感が後押し

 5年前、県内では地上デジタル放送が始まっていたが、同村は県内唯一、ブロードバンド回線の未普及地域だった。
2005年に旧宝珠山、小石原両村が合併して東峰村が発足した後も人口流出が止まらず、村総務課の井上健司参事(57)は「情報まで過疎化すれば、完全に取り残される」と感じたという。

 その危機感がデジタル化推進を後押しした。09年、光ファイバー網整備に着手し、10年10月末に完了。同11月には、村営放送局「とうほうテレビ」を開局させた。かつてテレビの難視聴地域もあったが、それも光ファイバー網が解決。今年7月の地デジ放送完全移行にも100%対応できた。

■「距離縮めたい」

 「滑り台、楽しい?」。村内の河川プールで、村総務課職員の杉野秀行さん(36)と池田恵梨奈さん(23)が、日焼けした子どもたちにマイクを向けた。撮影は同課の小島祥二さん(35)。とうほうテレビの取材、編集は、この3人でこなす。

 同テレビは2週間に1本(1時間)の情報番組を制作する。行政からのお知らせや地域の生活情報のほか、独自取材した祭りやイベントも放送する。“動く広報紙"とも言われているという。

 「小石原について、何にも知らなかったことに気付いた」。池田さんは旧宝珠山村出身。取材を重ねるうち、旧村間の「距離」を実感した。

 村役場の宝珠山庁舎-小石原庁舎間は約10キロ。車で十数分の距離ながら、陶器の里(旧小石原村)と棚田の里(旧宝珠山村)では、気質も風土も異なる。「放送で、少しでも距離を縮めたい」と池田さん。村内融和は合併後の課題の一つだが、このテレビ、実は別の重要な役割も担っている。

■職員が安否確認

 「ほら、この世帯、要注意です」。村住民福祉課の伊藤国雄参事(57)は毎朝、ノートパソコンを開くのが日課だ。画面には、独居高齢者の名前がずらり。「要注意」とは、中でも警告表示が出ている高齢者宅を指す。

 これは、光ファイバー網整備と同時に導入した村独自の「高齢者見守りシステム」。65歳以上の独居高齢者のうち、民生委員が見守りが必要と判断した人が対象で、既に計50世帯に導入した。

 光ファイバー網でつながったテレビが24時間以上電源が入ったままか、電源が消えたままのいずれかの状態になると、役場のパソコン画面に警告が表示される仕組みという。職員が電話や直接訪問で安否を確認する。

 ただ、村の高齢化率は県内トップの36.5%(昨年10月現在)。同システムの見守りの“光"が届かない独居高齢者もいる。対象の拡大は可能だが、コストが膨らむ。
光ファイバー網の整備費用約5億円は、ほぼすべて国の交付金などで賄い、村の負担は約75万円で済んだ。だが、維持や運営にかかる費用は本年度予算で年間3千万円以上。住民の回線使用料などで600万円余りを徴収できる見込みだが、それでも一般財源からの持ち出しは、2500万円を超える。

 公共サービスとはいえ、「収支を改善しないと継続か否か、という議論にもなりかねない」と同村。村営放送局への広告を募るなど、第2の収入源を探り始めた。光ファイバー網という財産をいかに維持し、使いこなすか。模索は続く。