10月登録開始 「サービス付き高齢者住宅」の特徴知ろう
2011年09月04日 日経新聞
高齢者住まい法の改正を受け、新たな高齢者向けの賃貸住宅制度「サービス付き高齢者向け住宅」の登録が10月から始まる。安否確認や生活相談といったサービスの提供を義務付けたのが特徴で、契約者保護の規定も充実させた。新制度の概要や、実際に住宅を選ぶ際の注意点についてまとめた。
高齢者向け賃貸住宅が一本化
「何かあった時には、ボタンを押せば誰かが来てくれるので、心強い」。千葉県船橋市の高齢者専用賃貸住宅(高専賃)「Cアミーユ船橋前原」の一室で暮らす岡本由江さん(96)はこう話す。
心臓に持病があり要介護度は4と高い。住宅1階に併設した訪問介護ステーションのヘルパーが1日に何度も部屋を訪れ、食事やトイレの手伝いをしてくれる。ベッド脇や浴室など室内3カ所に緊急通報ボタンが設置されていることも、岡本さんや家族の安心につながっている。
高専賃や高齢者円滑入居賃貸住宅など、これまで複数あった高齢者向け賃貸住宅は、10月以降、サービス付き高齢者向け住宅におおむね一本化される。
有料老人ホームなどを展開するメッセージが運営する冒頭の住宅は、新制度の登録基準を満たす。総戸数70戸で入居者の半数強が要介護1以上。外見は一般のマンションとあまり変わらないが食堂やサークル活動のスペース、ストレッチャー付きの浴室といった共用設備も備える。
図Aにサービス付き高齢者向け住宅の主な登録基準をまとめた。設備面では部屋の床面積を原則、25平方メートル以上のバリアフリー構造とし、キッチン、水洗トイレ、収納設備、洗面台、浴室を備えることが必要だ。
サービス面では日中はヘルパー2級以上の資格を持った職員が常駐し、入居者の安否確認と生活相談に当たることを義務づけた。
「安否確認」「生活相談」義務に
契約者保護も強化した。例えば有料老人ホームは入居一時金が1千万円を超えることもあるが、短期間で退去した場合でも、2~3割もの初期償却を差し引かれるなどのトラブルが絶えない。新制度は入居者が事業者に支払うのは「敷金」「家賃」「サービスの対価」に限定した。
冒頭の住宅の場合、入居にかかる一時金や更新手数料は不要で、家賃を含めた毎月の費用は約13万円。介護保険の自己負担額、食事代、居室の水道光熱費などは別途必要だ。所管する国土交通省安心居住推進課は「大半のサービス付き高齢者向け住宅の費用は、厚生年金受給者であれば年金の範囲内で無理なく払っていける水準に落ち着く」とみる。
前払い金を払う場合でも、保全措置と返還ルールの明示を義務付けた。千葉大学工学部の小林秀樹教授は「契約内容が透明化されたことで『退去の自由』が明確になる。初期償却の問題から自分の生活に合わない施設や住宅に我慢して住み続けるといった事態を避けられる」と評価する。
一方、注意点もある。最も気を付けなければならないのは提供されるサービスの中身だ。法律で義務付けられているのは、安否確認と生活相談のみ(図B)。訪問介護や訪問診療など介護や医療は原則として外部のサービスを利用する。この点は通常の在宅介護と変わらない。
生活相談は「行政や地域の情報提供やテレビのリモコンの使い方などこまごまとした内容」(有料老人ホームや高専賃を運営する生活科学運営)にとどまることが多いという。部屋の清掃や買い物代行など追加で何かを頼めば、原則費用がかかると考えた方が賢明だ。
高齢期の問題に詳しいファイナンシャルプランナー(FP)の山田静江さんは、入居後のトラブルを防ぐためにも「どのような上乗せサービスが提供されているのか、費用は居住費などに含まれるのか利用の都度かかるのかなどについて、事前によく確認する必要がある」と強調する。複数の住宅や施設を見学し、比較することも欠かせない。
自己負担、膨らむことも
ベッド脇、トイレ、浴室の計3カ所に緊急通報ボタンが備えられている(千葉県船橋市)
サービス付き高齢者向け住宅に元気な状態で入居しても、時間の経過に伴う身体の衰えは避けられない。要介護度が高くなってからも、同じ場所で暮らし続けることは可能なのだろうか。
厚生労働省は「介護保険外で実施する短時間訪問サービスの有無など、各住宅のサービス次第」(高齢者支援課)と話す。だが手厚いサービスを受けようとすれば、それ相応の費用がかかる。介護保険の利用も上限を超えれば、超過分は全額自己負担。同じ場所で住み続けられるかどうかは、入居者や家族の経済力による部分が大きいといえる。
在宅高齢者を支援しようと、2012年4月の介護保険制度改正で、1日に何度も利用者を訪問して短時間介護・看護をする「24時間対応サービス」が導入される。
サービス付き高齢者向け住宅が機能するのに欠かせない仕組みだが、懸念も残る。高齢者住宅のコンサルティング会社タムラプランニング&オペレーティング(東京・千代田)の田村明孝社長は「対応できる事業者がどれだけいるかは不透明だ」と指摘する。
千葉大の小林教授も「介護事業所などを併設して住宅の複合化を進めたり、外部のサービスや地域社会との連携を強化したりしないと、安心して暮らせる住宅にはならない」とみる。
名称こだわらず中身で複数比較
所管官庁や根拠になる法律の違いのため、高齢期の住まいは種類が多くて分かりにくい。FPの山田さんは「名称だけにこだわらず、サービスの実態、費用、立地、入居者の生活スタイルなどを目安に選ぶといい」と助言する。
表Cに主な住宅や施設をまとめた。24時間定額で介護を受けられるのが、介護付きの有料老人ホームや特別養護老人ホームなどの施設だ。
自治体の財政難などから05年をピークに新規開設は減少。特に費用の安い特別養護老人ホームは入居待ちの高齢者が全国で42万人に上る。田村社長は「24時間定額のケアを望む高齢者の受け皿が不足し、高専賃などに要介護度の高い高齢者が流れている」と話す。
国土交通省によると、2010年の高齢者の単身・夫婦のみの世帯は約1千万。約1245万世帯まで増える20年までに、サービス付き高齢者向け住宅を中心に、高齢者が安心して暮らせる住まいを60万戸確保したいとしている。供給を促すために、建設・改修費補助として11年度予算で325億円(約3万戸分)を確保した。税制上の優遇措置もあり、異業種からの新規参入が相次ぐ見通しだ。
サービス付き高齢者向け住宅の登録は都道府県、政令指定都市、中核市が審査し、指導監督する。登録したサービス内容がきちんと提供されているかといった質の確保が、急ピッチの整備に追いつくかも課題になりそうだ。
(佐野彰洋)