KDDIが「Mi-LOOK」で参入する高齢者の見守り市場とは

2011年07月25日 ITmedia

KDDIが発表した見守り歩数計の「Mi-LOOK」は、あえてケータイを持たないという70代以上の高齢者を対象とした新コンセプトの端末だ。歩数計と人感センサーを組み合わせることで、自宅でも外出先でも、プライバシーに配慮しつつ家族を見守ることができる。

 KDDIが発表した京セラ製の「Mi-LOOK」は、高齢者とその家族のために開発された“見守り”端末だ。従来のホームセキュリティ端末といえば、子どもとその保護者をターゲットにしたものが主流だったが、KDDIは“ケータイを持たない高齢者層”という新市場の開拓に乗り出す。
 同社ではシニア層を意識したユニバーサルデザイン「簡単ケータイ」シリーズや、もう少し若いエルダー層向けの「URBANO」シリーズをラインアップしている。しかし、もっと年齢が高くなると携帯電話への興味とニーズが低くなるため、デザインや通話品質、通信速度を訴求するだけでは高齢者層に端末を持ってもらえないのが現状だ。

 KDDI コンバージェンス推進本部市場開発部部長の村井義明氏は、「70歳代から80歳代の高齢者層は携帯電話の所有率が低い。『ここまで来たらケータイなんていらない』と考える方が多く、家族が持たせようとしても『いらん』と言われるケースが多い」と話す。

 こうした高齢者層で問題になっているのが、単身や夫婦のみで暮らす世帯の増加だ。こうした世帯は2010年度に1000万世帯あるといい、今後も増えていくとみられている。その子ども世代の8割が親たちの暮らしに強い不安を感じているにも関わらず、なんらかの対策を行っているのは「6人に1人と数少ない」(村井氏)という。

 また対策についても、要介護状態になってから介護施設や老人ホームを手配したり、ホームヘルパーを派遣するなどの手段がほとんどで、予防という観点からの対策法が少ない。逆に親世代が健康で日常生活を送っているいる場合は、“今すぐ必要はないのでは……”と、様子見のまま手をこまねいているのが現状だ。村井氏は「親たちを『見守る』といっても、手段が分からなかったり、コストの不安などがあって、必要性を感じていても何もしていないことが多い。見守り分野の製品は成長市場といえる」と話す。

増加する高齢化世帯が社会問題になっているが、予防観点での取り組みはまだまだ認知されていない
成長市場という見守り分野だが、ニーズにマッチした製品はほとんどなかった

 KDDIでは、1000万世帯のうち3割弱の約300万世帯が、見守り端末の利用意向があると算出。村井氏らはこの結果を踏まえて、子どもを対象とした見守り端末の「mamorino」を使ったトライアル調査を地方の村に住む70代以上の“ケータイ無関心層”を対象に行った。

「mamorino2」 「その結果分かったのは、mamorinoでは字が小さく操作にしくいこと、そして高齢者層の多くは自分からあまり電話をかけため、着信がメインになること――などだった。また、緊急時の通報や居場所の通知は9割以上が支持しており、センサーによるさりげない見守り方も評価が高かった」(村井氏)

 Mi-LOOKはこうしたトライアルの結果から開発された製品で、現時点で「競合商品が無い」(村井氏)という強みがある。実は、全国1800の地方自治体が「緊急通報システム」という見守り事業を行っているが、費用面や地域の協力者が必要などの課題があり普及率は低いままだ。また、民間業者も同様のサービスを行っているが、提供地域が少ないことや大型の通報装置を設置することへの抵抗感、そして、他人(業者)が家庭に入ることへのプライバシーに対する不安などから、こちらも普及していない。

 「その点Mi-LOOKは、自宅なら卓上ホルダのセンサーが、外出時なら端末の歩数計が、親たちをそっと見守ってくれる。このそっと見守る点が、プライバシーの観点では重要だ。また、いざという場合に備えて緊急ブザーがあり、位置情報とその後の移動経路も通知される。電話する相手も登録制で、自動応答とハンズフリー通話が可能なので、ケータイの操作が苦手な人にも呼びかけやすい」(村井氏)

 そのほかにもMi-LOOKは、防水ボディや家電感覚で操作できる物理キーの採用、自動音声で通知する緊急地震速報など、高齢者とその家族が安心して使ってもらえるような工夫を随所に盛り込んでいる。村井氏は「Mi-LOOKは、大切な家族の新しいコミュニケーションを築ける製品。これからの高齢化社会に貢献できると思う」と意気込みを語った。