高齢者消費を引っ張る「キリギリスト」たち
団塊増えシンプル派が台風の目に 日経産地研

2011年05月04日 日経新聞

 ほぼ3000万人で構成する高齢者(65歳以上)の市場をひとくくりにはできない。ライフスタイルなど多様だからだ。日経産業地域研究所はインターネット調査(60歳~74歳の男女600人が対象)に基づき、「消費に対する積極性」と「最期のセレモニーに関する考え方」という2つの軸で回答者を4グループに分けて分析した。

 まず、「自分の生活を充実させるためなら、資産が減ってもかまわないと思うか」と尋ね、肯定した人と否定した人に分けた。イソップ寓話に倣い、前者を消費優先の「キリギリスト」、後者を貯蓄重視の「アリスト」と名づけた。次に、葬儀など最期のセレモニーについて「必要ない」と考える人を「シンプル派」、「必要」と考える人を「儀礼派」とした。これらを組み合わせると、次の4つのグループに分けられる。

 (1)シンプル派キリギリスト……生活充実のため消費を重視し、葬儀は簡素でいいと考える人々。最も数が多く、金融資産や所有不動産の額にかかわらず、広く存在する。半数は夫婦だけの世帯。

 (2)儀礼派キリギリスト……消費にもセレモニーにもお金を使う。(1)とほぼ同数。金融資産3000万円以上が2割、時価1000万円以上の不動産を持つ世帯が6割以上と比較的裕福。「夫婦だけ」が多数派。

 (3)シンプル派アリスト……消費もセレモニーも簡素にというグループ。金銭的に最も余裕がなく、金融資産300万円未満が半数、不動産300万円未満が4割を占める。全体の1割強の少数派。

 (4)儀礼派アリスト……消費は抑え気味だが、葬儀などはそれなりにと考える。金融資産は少なめで300万円未満が4割近い。3000万円以上の不動産を持つ世帯が2割と富裕層も交じる。

 4グループで消費に最も積極的なのは儀礼派キリギリスト。シニア向け商品・サービスを例示して関心のあるものを挙げてもらったところ、5割以上が「健康診断サービス」を選んだ。「緊急通報システム」「安否確認サービス」も多く、健康や安全関連のサービスにお金を惜しまない。「家事」「買い物」の代行サービスにも関心が高い。

 同じキリギリストでも、シンプル派は儀礼派とは異なる。「貯蓄を残すより生活が豊かになることを優先」との立場を肯定したのは8割を超え、儀礼派を10ポイント以上上回った。「豊かさ」の中身は単にモノやサービスを購入することだけではない。「環境保護のためには生活が多少不便になってもいいと思う」との問いにYESと答えたのは69.0%と、次点の儀礼派キリギリストより8ポイント以上高かった。

 貯蓄優先のアリストのなかでもシンプル派は引き締め姿勢が強い。「支出を減らしたいもの」を例示のなかから選んでもらったところ、全ての項目で2ケタとなり、他グループを上回った。「経済面で生活に不安がある」と感じる人が8割以上にも達した。

 儀礼派アリストも支出は抑え気味だが、「この1年で支出を増やしたもの」を聞くと、「家族との外出・外食」「子供や孫へのプレゼント」が4グループで最多だった。セレモニーを重視するだけに、家族や親族との絆を深めるような支出は別扱いのようだ。

 では、次に台頭するグループはどれか。カギは世代構成にある。シンプル派キリギリストには戦後生まれの団塊世代が多く、60~64歳が4割弱を占める。総数で拮抗する儀礼派キリギリストに65歳以上が多いのと対照的だ。いずれ儀礼派キリギリストが減り、シンプル派キリギリストが主流になるのは確実だ。65~69歳のほぼ戦中生まれの世代(以下「戦中」)と比べると、団塊世代の特徴が3点浮かび上がる。

(1)重視するのは友人より家族

 「今後、支出を増やしたい」項目で団塊が選んだのは「家族との旅行」「家族との外出・食事」の順。戦中が「友人知人との外出・外食」「友人知人との旅行」の順だったのとは対照的だ。友人・知人を優先する戦中に対し、団塊は家族を重視する。

 (2)当面は消費より貯蓄優先

不透明な経済情勢や年金制度への不安を反映してか、当面は貯蓄を優先する姿勢が団塊世代に強い。「将来に備え、少しでも貯蓄をしたい」は団塊が戦中を上回る。

 (3)社会貢献・環境意識は低い

社会貢献や環境保護の意識は団塊の方が低い。「経験や資産を基に社会に貢献したい」は戦中37.0%に対し、団塊は30.5%。「環境に配慮した商品をできるだけ使う」は戦中74.5%、団塊67.0%と差がついた。

 第一生命経済研究所の小谷みどり主任研究員は「団塊世代は自分たちの前の世代や親の世代を反面教師と見ている。子供の世話にならない『自立した老人』になりたいという思いが強く、自分中心の価値観になる傾向がある」と指摘する。