「見える省エネ」 スマートメーター準備進む 実証実験や増産への対応
2011年03月06日 日経新聞
スマートメーターと呼ばれる次世代電力計の導入準備が進み始めた。双方向通信機能を備え、刻々と変化する電力利用量を遠隔地から測れるところが「スマート(賢い)」たるゆえんだ。検針員の巡回を丸ごと省けるだけではない。消費電力をきめ細かく「見える化」して、家庭の省エネ行動を促すといった効果も見込める。社会の低炭素化に向け、政府は2020年代早々の全戸導入を想定。設置を担う電力会社も実証実験に踏み出した。
昨年秋、東京電力は東京都小平市の約4千戸にスマートメーターを取り付けた。通信機能が確実に働き、電力データを集められるかどうかを試す実証実験に使うためだ。東電は結果を踏まえ、11年度に10万戸規模に拡大することを検討する。実験は関西電力が先行。08年度から開始し、管内の60万戸超で遠隔検針を始めている。
電力利用量は30分ごとに計測する。このデータを活用すれば家庭の省エネは様変わりする。現状ではエアコンの温度設定を変えたり、照明をこまめに消したりしても、どれだけ節電できたかを正確に把握するのは難しい。ほぼリアルタイムの消費電力がわかれば、「冷蔵庫の開け閉めを控えたらこんなに節電できた」といった具合に、省エネの手応えをつかみやすい。
実際に「見える化」するには、メーターからデータを受け取ってグラフなどで表示する「家庭エネルギー管理システム(HEMS)」と呼ぶ機器が必要になる。東芝やNECなどの電機大手や住宅メーカーが今年中にも製品を投入する予定だ。
当面は配電盤に取り付けたセンサーからデータを得る想定だが、IT(情報技術)と組み合わせれば省エネの効果をさらに高めることが可能だ。例えば大和ハウス工業が提案する仕組みでは、メーターとHEMSにつながったスマートフォン(高機能携帯電話)の画面で省エネに役立つ家電の使い方を指南する。
電力使用の状況から生活パターンをつかめば、独り暮らしの高齢者の事故を察知する「見守りサービス」にも生かせる。新たなサービスを生むインフラになるとの見込みから、日本IBMやグーグル日本法人などのIT企業も電力会社などとメーターの規格について議論を始めた。
スマートメーター導入に期待が集まるのは、スマートグリッドと呼ぶ次世代送電網の普及に役立つことも理由の一つだ。スマートグリッドでは、家庭の太陽光発電装置で生み出した電力が余れば近隣で分け合い、発電所から送る電力を節約するといった効率化が可能になる。どこの家庭でどれだけの電力が余るのかを把握するには、スマートメーターが不可欠になる。
高まる待望論を受け、メーターのメーカーも増産に動く。今年度に約20万台を製造する大崎電気工業は、13年度をメドに年200万台規模の生産能力を備える方針。東光東芝メーターシステムズ(東京・港)は来年度中にもラインを新設し、13年度には年100万台規模で製造できる体制とする。富士電機ホールディングスと米ゼネラル・エレクトリック(GE)は2月に共同出資会社を設立し、3~5年後の量産を目指す。
メーター導入に向けた動きは、欧米各国でも進んでいる。停電などのトラブルや盗電を防ぐ目的もあって導入が進んだ。欧州連合(EU)は20年までに域内全戸の8割に普及させる指針を策定。スペインのようにこれを受けて導入を義務化した国もある。スウェーデンやイタリアはおおむね全戸への導入を達成。英仏両国は20年までにほぼ全戸への普及を目指す。米国も1000万台超が設置済みだ。
一方、送電網が安定している日本は設置コストを負担する電力会社が導入に消極的だったため、欧米の背中を追いかける格好。HEMSなど周辺ビジネスを獲得するためにも、インフラ整備を一段と加速させる必要がありそうだ。