老夫婦 孤独に逝く 新潟市郊外の住宅地

2011年02月28日 朝日新聞


 新潟市郊外で今月初め、2人で暮らしていた夫婦が自宅で亡くなっているのが見つかった。80代の妻を介護していた80代の夫が急死し、体の不自由な妻は助けを求めることができなかった。献身的な夫と、そんな夫に全幅の信頼を寄せていた妻。近所の人の目にも、仲むつまじい夫婦と映っていた。一方で、「老老介護」が直面する悲しい現実――。救う手だてはなかったのか。
(高見澤恵理、柄谷雅紀、富田洸平)


 国道を新潟市中心部から郊外に向かうと、日本海に面した高台に閑静な住宅が並ぶ。その一角に、手入れの行き届いた季節の草花に囲まれた一軒家が立つ。

 夫が居間に敷かれた布団の中で見つかったのは、今月1日。妻は廊下を挟んで向かいにある部屋で、ベッド脇の床に横たわっていた。

 県警などによると、妻は数年前から手足が不自由になり、夫が介護や家事をしていた。2人の遺体が見つかった際も、家の中は整頓され、掃除が行き届いていたという。

 夫は1月末に心臓疾患で亡くなり、その2日後、妻が亡くなったとみられる。

 「1月27日 積雪30センチ、降雪続く。しめった雪時々。ダイコン煮など作る。……(ヘルパーが)2カ月のケア計画を置いていった」
 夫が毎日欠かさず書いていた日記には、普段と変わらない1日が記され、台所にはダイコンの煮物があった。

 2人を発見したのは、親族の女性(54)。週1、2回、定期的に訪れていた。先月25日にも訪ねたばかりだった。

 異変を感じたのは、何度電話しても応答がなかったためだ。翌日、訪ねてみると、戸やカーテンが閉まったまま。「何かおかしい」。合鍵で入り、2人を見つけた。
 この女性が目にした妻は、顔色もよく生きているように見えた。「けれど、もう息はありませんでした」

 2人の息づかいが今も感じられる夫婦の自宅。親族の女性は「まさかこんなことになるなんて。寿命だし仕方ないけど、残念という思いは今も消えない」と、やりきれない思いをにじませた。

 近所の住民によると、夫妻は庭いじりが好きで、隣近所の人にも教えたり、家庭菜園で育てた野菜を分けたりしていた。夫は病気もなく、朝早くからラジオ体操をすることも。先月下旬には雪かきに汗を流す姿も見かけたという。

 妻が体が不自由になってからは、夫が身の回りの世話やリハビリに付き添うなど、仲の良い夫婦として知られていた。近所の女性は「夏に窓が開いていると、2人の笑い声が聞こえてきた。本当にいいご夫婦だった」。

 自治会役員によると、一帯は約30年前から整備されてきた住宅地で、移り住んだ人が多いという。

 新潟市は、65歳以上の高齢者のみの世帯を対象に、ベッドや台所などにブザーを設置し、ボタンを押せば24時間態勢の受信センターにつながる「あんしん連絡システム」のサービスを提供している。地元の民生委員を昨年11月まで務めていた女性は、一人暮らしの高齢者宅には設置を勧めているという。しかし、2人暮らしでデイサービスも利用していた夫妻には勧めなかった。「『あんしん連絡システム』は週に1度センターから連絡が来るのを嫌がる人がいたり、必要性を感じない世帯があったりして、支援から漏れてしまう人も多い」と話す。

 2人が暮らしていた地区は、40世帯中、高齢者のみの世帯は8世帯。自治会役員は「こういう事態を心配していた。今は元気でも、年をとればどうなるかわからない。5年後には高齢者のみの世帯はもっと増えるだろう」と危機感を募らせている。


【地域で見守り、県が後押し 新年度予算案】

 県は来年度予算案に、高齢者などの見守りや支援体制を強化するための予算として4億8千万円を計上した。高齢者が社会から孤立することを防ぎ、地域で支えられる体制を整備することが目的だ。

 県高齢福祉保健課によると、各市町村に福祉関係の団体やボランティア、有識者らによる「見守り・支援ネットワーク協議会」(仮称)を設置し、山あいや都市部など地域の特色に応じた支援体制を検討してもらうという。先駆的な支援活動には助成金も出す。同課は、「民生委員や行政だけではできない見守りや支援を行ってもらえれば」と期待を寄せる。

 また、地域の介護問題などに取り組む最前線となる地域包括支援センターの充実にも力を入れる。現在、県内にある地域包括支援センターは115。だが、理想は「現在の2倍」(同課)だ。そのため、県は新たにセンターを開所したり、支所を設置したりする際には助成を行うという。同課は「これから高齢化はますます進んでいく。少しでも支援や見守りの取り組みに力を入れたい」。