そこが知りたい:民生委員が足りない!! 地域福祉の要が揺らいでいる/千葉

2011年02月13日 毎日新聞

 ◇「主要な成り手の定年退職者などが仕事に」 委員1人の負担増も

 地域で見守りが必要な高齢者や子供を抱える世帯の相談に乗る民生委員の成り手不足が、県内で深刻化している。昨年12月に全国一斉で3年に1度の選び直しがあったが、県内では定数8796人に対して307人の欠員が生じた。54自治体のうち定員を満たしているのは半数以下の21自治体。中でも県北西部の都市部で充足率が低い。欠員が常態化する地域もあり、地域福祉の要が揺らいでいる。【西浦久雄】

 ◇高齢化で役割増える

 民生委員は地域で相談に乗るほか必要に応じて支援も行い、福祉事務所などの自治体業務にも協力する。民生委員法は役割を「社会奉仕の精神で福祉増進に努める」と定める。無給で、市町村が推薦した人物に厚生労働相が委嘱する。児童委員も兼ね、任期は3年。いわば、地域と福祉行政の間をつなぐボランティアの橋渡し役だ。

 政令・中核市をのぞく県内自治体の充足率は00年度末に100%を超えていたが、01年度末97%に下落。それ以降は96~98%で推移し、一度も定員を満たしていない。

 昨年7月以降、所在不明となっている100歳以上の高齢者が県内外で多数判明し、死亡した高齢者の年金を不正受給していた事件も相次ぎ発覚した。地域に目を配る民生委員の不足が、背景の一つになっているとみられている。

 成り手不足の背景について、独居高齢者の食事会を毎月開いている松戸市小金原地区社会福祉協議会の中村建一会長(81)は「これまで主要な成り手だった定年退職者と主婦が、最近は仕事をするようになった。適齢期の団塊世代も再就職する人が多い」と指摘。長引く不況も影を落としているようだ。

 さらには、社会情勢の変化で高齢化や児童虐待問題が深刻化し、民生委員の役割が増え続けているにもかかわらず、制度は法律ができた1948年から変わっていないことも、背景として指摘されている。中村会長は「今のままでは成り手不足が委員1人あたりの負担増を招き、さらに成り手が減る悪循環にはまってしまう」と心配している。

 厚労省は昨年2月、「適任者が得られるよう特段のご配意を願いたい」とする通知を出して、積極的な選任を促しているが、抜本的な解決策は打ち出せていない。

◇  ◇

 民生委員の具体的な仕事は、住民の生活状態を必要に応じて適切に把握する▽援助を必要とする住民が能力に応じて自立した日常生活を営むことができるように、生活に関する相談に応じ、助言などの援助を行う▽援助を必要とする住民が福祉サービスを適切に利用できるよう、必要な情報提供を行う▽社会福祉の事業や活動を行う者と密接に連携し、事業や活動を支援する▽福祉事務所など関係行政機関の業務に協力する--など。また、兼務する児童委員の仕事は、児童福祉法に基づき、地域の子供や妊産婦の健康、生活状態を把握し、必要に応じて援助を受けられるようにすることなど。

 ◇県北西部で特に深刻 市の依頼に「荷が重い」と固辞

 都市部の県北西部では、民生委員の成り手探しに関係者が四苦八苦している。東葛・葛南9市の平均充足率は約95%で、欠員ゼロが多い房総地域に比べ、状況は深刻だ。

 定員163に対して欠員が17と充足率が9割を下回り、県内最低水準となっている流山市では、12月以降も関係者が奔走。市内の各自治会に推薦を依頼しているが「荷が重い」と断る人が多く、市職員自ら過去の市政協力者リストを元に直接交渉を進めている。

 次回委嘱期日の4月1日には、どうにか新たに10人を推薦する予定という。市の担当者は「ただただ、やっていただける人がいなくて」と嘆く。

 松戸市では、市内18地区のうち10地区で欠員が発生している。その一つ、小金原地区では定員30に対し欠員は8。高度成長期に首都圏へ流入する地方出身者の受け皿となり、高齢化が進む大規模団地を抱えている。

 成り手を探している同地区の民生委員推薦会地区準備会の木村正男委員長(83)は「こんなに厳しい状況になるとは。とにかく断られる。今から次回の改選が不安だ」と表情を曇らせている。

 地区で直近まで委員を務めていた30人のうち、再任に応じたのは11人。数人が高齢を理由に引退し、半数以上が再就職などを理由に辞退した。継続が期待された若い部類に入る60代中心の1期目の委員では、13人中6人が退いた。地区の計18町会長に適任者探しを依頼したが、新たな成り手は3人しか確保できていない。

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 ◇民生委員の欠員多い自治体◇
 (1)千葉市   56(1467)

 (2)船橋市   43( 749)

 (3)松戸市   30( 538)

 (4)柏市    23( 516)

 (5)市川市   18( 462)

 (6)流山市   17( 163)

 (7)旭市    10( 142)

 (8)白井市    9(  82)

 (8)木更津市   9( 223)

(10)大網白里町  8( 72)

(10)印西市    8( 132)

(10)茂原市    8( 142)

(10)成田市    8( 200)

(10)佐倉市    8( 206)

 ※カッコ内は定数。10年12月1日現在。県などの調べ