広がる安否確認システム 元気キャッチ、見守り家電
2011年01月27日 中國新聞
■テレビ電話・電気ポット…使用状況メール配信も
連載「きずな」第2部「老いてひとり」の取材の中で、孤独死への不安を募らせる高齢者に多く出会った。今、どんな安否確認の手段があるのか。広がっているのは、情報通信技術(ICT)を駆使した見守りシステムだ。高齢者だけでなく、離れて暮らす家族にも安心を届けている。
「お父さん、元気にしよる? 今日も雪が多いでしょう」。広島市東区の主婦勝部ヨシ子さん(64)が、自宅の居間でテレビ電話と向き合っていた。画面に映し出されたのは、島根県奥出雲町に住む父、錦織善逸さん(90)。勝部さんが手を振ると、笑顔で応えた。
同町が2009年1月から運用を始めた、高齢者の生活サポート事業。町内全戸に整備した光ファイバー網を使い、これまでに高齢者宅や民生委員宅、福祉機関などにテレビ電話を計約800台設置した。設置も通話も無料。昨年6月からは、町外で暮らす高齢者の家族にもモニターとして貸し出している。
▽つながる安心感
勝部さんもモニターの一人だ。実家へは車で3時間以上かかる。以前は月1回のペースで父の様子を見に帰っていたが、最近は体力的にきつくなっていた。「顔色はいいか、暖かい格好をしているか。自分の目で確かめられて安心」と喜ぶ。
このテレビ電話を使い、同町では、コールセンターのオペレーターや民生委員が日常的な声掛けを実施。また毎朝午前6時半には自動的に「おはようタッチ」画面が表示され、高齢者がパネルを押すと家族の携帯電話などにメールで知らせるサービスもある。
町のアンケートでは、テレビ電話を使う高齢者の半数以上が「これまで感じていた不安や寂しさが和らいだ」と回答した。町総務課は「中山間地は過疎・高齢化が進み、支え手が減っている。テレビ電話を通じ、いつも誰かとつながっているという安心感を提供したい」と話す。
岡山県矢掛町でも08年12月、テレビ電話を使った新システムが本格始動した。一人暮らしの高齢者、近所の「協力員」、遠隔地の家族の3者がチームをつくり、それぞれの家に電話を設置。高齢者は画面をタッチするだけで、協力員や家族のほか、町の委託を受けた民間の「見守りセンター」に連絡できる。
高齢者の安否は付属の熱感知センサーでも確認する。24時間以上熱を感知しないと、システムが異常を察知。センターは電話で安否を確認し、緊急時には協力員や家族に現場へ向かってもらう。
電話機は無料で貸し出し、通話料などは町が助成する。町保健福祉課は「システムは、ご近所さんや家族の協力なしには機能しない。利用を機に、高齢者を取りまく地域や家族の絆を強めてほしい」と期待する。
▽高齢者負担軽く
家電製品の利用状況をモニターし、高齢者の安否を確認するシステムも、相次いで開発されている。情報通信サービスの周南マリコム(周南市)の「カデモ」もその一つだ。
システムは、テレビや電子レンジなどの電源コードに8センチ四方のセンサーを取り付け、電流量を感知。家族の携帯電話などに電子メールで1日2回、何時にどの家電製品が使われたかを伝える。初期費用は2万1千円、レンタル料は月3990円。購入もできる。
光市の時弘孟さん(73)、和子さん(72)夫妻は2年前、周南市に暮らす長女(47)の勧めで使い始めた。「普通に暮らしているだけで娘に無事を確かめてもらえる。安心感がある」と声をそろえる。
同社は「使い慣れた家電製品が安否確認のツールになる。カメラやマイクが必要ない分、見守られる側の精神的な負担も少ない」とアピールする。
高齢者のお茶の習慣を生かした象印マホービン(大阪市)の「みまもりほっとライン」は、無線通信機を内蔵した電気ポットの使用状況で無事が分かるサービスだ。電源を入れたり、給湯したりすると、その情報が1日2回、電子メールで家族に届く。
ポットはレンタルで契約料5250円、利用料は月3150円。運用開始から10年で、全国約4千件の利用がある。同社は「高齢者がお茶を飲む時間帯や回数は、ほぼ決まっていることが多い。リズムの乱れは体調の変化を知らせるサインにもなる」と話している。(木ノ元陽子、田中美千子)