高齢者見守りシステム:大阪府の開発から3年、導入まだ5市 自治体ありがた迷惑

2011年01月19日 毎日新聞

◇「事務量膨大」
 大阪府が、高齢者を地域で支援するために開発した情報共有システムの普及が進んでいない。主治医や既往症などの生活情報を共有することで、事故や急病などの際に活用するのが目的のシステム。大阪府が08年に全国で初めて開発したが、府内43市町村のうち導入はわずか5市にとどまっている。府は「高齢者虐待の早期発見にもつながる」とPRするものの、自治体の現場は「事務作業が増えるだけ」と後ろ向きだ。【花牟礼紀仁】

 このシステムは「地域あんしんシステム」。見守り対象となる高齢者の自宅、既往症、入院歴、主治医などの他、民生委員の住所や介護事業所などの情報を管理して、地元市町村の担当者間で共有。検索すると、パソコンの地図上に関係機関が表示され、事故や急病などの事態が発生した場合や、災害時の避難などの際に迅速に対応できるようにした。

 また、「どなり声、不自然な傷がある」「同居人がいるのに毎日弁当を買う」など、虐待発見の端緒となるチェック項目もあり、高齢者宅を訪問する民生委員らが携帯電話から入力。こうした情報も随時更新され、異常の早期発見に役立てる。

 大阪府は、06年の介護保険法改正で全市町村に設置された高齢者支援機関「地域包括支援センター」での運用を想定。しかし、導入したのは箕面、大東、羽曳野、柏原、阪南の5市のみ。他に泉佐野市が来月からの導入を検討しているだけだ。

 導入を見送った多くの自治体が指摘するのが「事務量の増加」。地域包括支援センターには、保健師や社会福祉士、介護福祉士らが常駐し、住民からの虐待通報を受けての対応や介護予防プラン作成、困りごと相談などを担当しているが、大半のセンターが実務に態勢が追い付いていないという。このため、新システムの導入に伴う作業量の増加に不安を訴える声が多い。

 府東部の地域包括支援センターの担当者は「既存の事務だけでも膨大。これ以上データ管理業務が増えると対応できない」と指摘。東大阪市高齢介護室は「(大規模自治体なので)高齢者の実態把握に時間がかかる上、継続してフォローする態勢づくりも必要。システム導入はその次の課題だ」と言う。

 一方、府介護支援課は「システムを導入すれば、担当者の負担はむしろ軽減する。複数項目のクロスチェックが容易で、本当に支援を必要としている人を見つけやすくなる」としている。