<まる見えリポート>玉城町・ICT高齢者支援 視察相次ぐ/三重

2010年12月12日 伊勢新聞

 人口1万5000人の小さな町、度会郡玉城町が、ICT(情報通信技術)を使った高齢者支援で全国の自治体から注目を集め、視察が相次いでいる。東大大学院新領域創設科学研究科と共同で実証実験中の予約制の乗り合いバス「元気バス」による外出支援に加え、話題のスマートフォン(多機能携帯電話)を活用した緊急通報や、安否確認サービスなど、全国に先駆けて取り組んでいる。

(伊勢志摩総局・鼻谷年雄)


 元気バスは、町が、高齢者の外出支援を目的に、平成21年度の「ICTふるさと元気事業」交付金を活用して、昨年11月から東大大学院新領域創設科学研究科と共同で実証実験を始めた。車両は、8人乗り2台と6人乗り1台で運行している。

 利用者は、事前に電話やインターネットで希望する乗車時間や乗降場所を伝える。都内の情報処理会社のコンピューターが、予約情報を処理して効率的な乗り合いのルートを設定し、車載器にデータを送信して運転手に示す。バス停は公民館や病院、ごみ集積所など138カ所にあり、ほとんどの町民が自宅近くから乗れる。運行範囲は町内に限り、乗車賃は実験中のため無料だ。

 このシステムを開発したのは、東大大学院新領域創設科学研究科教授の大和裕幸教授で、同科の学生らが手伝って運用している。昨年11月の開始以来、利用者は伸び続け、10月は延べ947人。行き先は町内の保健福祉会館や温泉施設が多い。元気バスのように、予約に応じてルートを設定し、運行する交通機関を「デマンド交通」と呼ぶ。人口の少ない地域では、決まった路線を走るよりも効率が良く、民間交通の直営バスの赤字に悩む自治体が期待を寄せている。

 システムの使用料は、初期費が50万円程度で、コンピューターの使用料が月額6万3000円。車載器は1台につき月額1万8900円。玉城町の場合、年間契約での割引も含め、使用料の合計額は年間約100万円。大和教授は、効率化が進めば、従来の大型の巡回バスと比較して、自治体の運行費の赤字を半分程度に減らせると試算している。

 町は、元気バスへの完全移行のため、従来型の「福祉バス」を、今年いっぱいで廃止すると決定した。

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 町は、今月から、元気バスのシステム上で独自の高齢者安全見守りサービスも始める。その鍵となるのが、現在、若い世代の間で急速に普及しているスマートフォンだ。

 町は、元気バス利用者の中から150人にスマートフォンを配布し、オペレーターがいる町社会福祉協議会やスーパー、公共施設など四十四カ所に設置端末を置いている。スマートフォンには、元気バスの予約と、安全見守りサービスが利用できる専用のソフトを入れた。

 このサービスは、「緊急情報発信」と「安否確認」の2つの機能に分かれる。

 緊急情報発信は、急な体調不調や危険に見舞われたとき、スマートフォンを使って各所の設置端末に緊急通報を一斉送信できるもの。受信者の端末の画面には、発信者のプロフィルと居場所の地図が表示され、駆け付けるかどうかを選ぶ。

 安否確認は、サービスを一定時間利用していない人に対し、スマートフォンの画面上に「元気です」「救護が必要です」の二択ボタンを表示して答えてもらい、社協のコンピューターに伝えるもの。

 いずれも今月中に実験開始予定だが、すでに幾つかの課題が浮かんでいる。

 まずは、高齢者がスマートフォンを使いこなせるのか。元気バスは、パソコンや携帯電話でネット予約ができるが、99%が通話での予約という。画面に触れて操作するため、従来の携帯電話より直感的で簡単と言われるが、依然として敷居は高い。

 緊急通報を受信する端末は、町内の伊勢市消防署玉城出張所にも置かれるが、消防はあくまで119番通報が基本で、町の実験にどう対応するか取り決めはない。これについて辻村修一町長は、「システムが競合するところもあり、研究を進める。必要なら(消防との取り決めを)考えなければ」と話している。

 また、宿直のいる公共施設を除き、受信する設置端末がある施設は、通常、朝九時から夜七時ごろまでしか対応できない。早朝や深夜の通報をどうするのか。疑問は尽きない。それでも町は試行錯誤しながら、次のスップとなる「安全情報の配信」も視野に入れて、事業を進めていく方針だ。

 実証実験の期間は来年3月までで、本格的な始動には、有料化を含めた議論も避けられないが、大和教授は、「遠方に住む子どもに料金負担をしてもらうなど、新たな収益モデルを構築し、持続可能なサービスになる」との見解を示す。汎用(はんよう)性のあるスマートフォンの導入は、サービスの転用や拡大が容易であることも意味する。全国モデルとなり得るだけに、今後の展開から目が離せない。