地域包括支援センターは今:/上 高齢者見守りに情報の壁

2010年11月10日 毎日新聞

 高齢者が住み慣れた地域で生活できるよう支援する「地域包括支援センター」は、全市区町村に設置されている。しかし、導入から4年半たった今も、存在すら知らない住民もいる。認知症や1人暮らしなど自ら支援を求めることのない高齢者が増えるなか、そうした高齢者を見つけ出し、支援に結びつけるセンターの役割は重要になっている。現在進んでいる介護保険法改正の議論でもセンターの相談体制をどう充実させるかがテーマになっている。現場を歩き、課題を探った。【有田浩子】

 ◇市の協力なく実態不明 職員の努力では限界
 「気になる高齢者のお宅を見回りしてください」。熱波が日本列島を襲った今年8月、佐賀市東与賀地域包括支援センターの久保英樹センター長(41)の元に高齢者の熱中症対策を呼びかけるメールが、市高齢福祉課から届いた。しかし、担当地域に見回りが必要になりそうな1人暮らしの高齢者がどこに住んでいるのか、久保さんは知らなかった。市は情報を把握しているが「本人の同意なしには情報は流せない」(高齢福祉課)と、個人情報保護を理由に提供していない。「基礎情報も共有していないのに、どうやって見回れというのか」。メールを見た久保さんは途方に暮れた。

 地域包括支援センターは06年の介護保険法改正で新たに高齢者の「よろず相談所」として設けられ、現在では全国4000カ所以上、全市区町村に設置されている。久保さんのセンターは09年4月に佐賀市から委託を受け、旧東与賀町(07年に佐賀市に編入)の地域を担当している。職員は久保さんを含めて3人だが、担当地域の65歳以上の高齢者は約1700人だ。活動開始当初に市がセンターに提供した情報は、センターが介護プランを作成する必要がある要支援1~2の高齢者と、介護状態になる可能性の高い高齢者など約100人で、担当地域の高齢者の1割にも満たなかった。

 センターにかかってくる相談の電話に対応するだけでなく、高齢者宅への訪問などを通じて顔なじみの関係を作り介護サービスに結びつけたり、介護予防事業への参加を促す。久保さんたちはこれまでの活動で老人会や自治会、民生委員らとの会合を重ね、1人暮らしの高齢者などを少しずつ把握していった。

 しかし、支援を必要としながらも、声を上げないままの高齢者を見つけるには、個人的なつながりだけでは限界がある。1人暮らしや認知症の高齢者など、支援が必要になる可能性が高い高齢者をきちんと把握した上で訪問ができれば効率的だし、住民のためにもなる。だが、市との間に横たわる「情報の壁」は厚い。

 市は高齢者の熱中症対策をセンターだけでなく、民生委員や老人会など関係者に呼びかけており、今夏は幸い、熱中症による犠牲者は出なかった。

 個人情報保護を理由に、活動に必要な情報を自治体などから提供されない地域包括支援センターは少なくない。社会福祉に詳しい大阪市立大の岩間伸之准教授は、「情報を提供しないでセンターに『足で稼げ』と言うだけでは、問題の予防や解決は難しい。情報を一律に流せばいいとは思わないが、行政の情報管理には行きすぎた面がある。目的や根拠を明確にしたガイドラインを作った上で対応していくことが重要だ」と指摘する。

 ◇地域包括支援センター
 保健師、社会福祉士、介護福祉士などの専門職が連携し、高齢者の支援を行う総合機関。困りごとの相談や、要支援の高齢者の介護予防プラン作成、住民からの虐待通報を受けての対応などのほか、民生委員やケアマネジャーが対応しきれない事例も担当する。自治体の直営が全体の約3分の1、残りが委託を受けた民間事業者。介護保険の地域支援事業費から委託費が出ている。体制や取り組みには地域差がある。独自の通称を使っているケースもある。