地方を生きる 第6部 <6>人との絆があればこそ・・・

2010年11月02日 読売新聞

 上島町内の光ファイバー敷設が完了間近になった昨年6月17日のことだった。生名島にある町営住宅で起きた81歳の独居男性の孤独死について、町長の上村俊之さん(53)は「今も心が痛む」と忘れられない。

 「倒れているかもしれない」

 隣人の通報で室内に入った救急隊員が、布団の中で亡くなっている男性を見つけた。死後2週間以上。部屋の電灯は長期間、消えたままだった。だが、男性から「心臓が悪いので6月に入ったら入院する」と聞いていた近所の人は「入院中だ」と思いこんでいたという。

 人と人とのつながりが強い島でも孤独死が起きるのか……。

 盲点を突かれた上村町長の頭に浮かんだのは、お年寄りの安否確認に光ファイバーを活用できないか、という思いだ。

 玄関や冷蔵庫の開け閉めをセンサーで感知したり、お年寄りに毎朝、ボタンを押してもらったりして、光ファイバーでつないだ町役場で把握する。長時間反応がなければ職員が駆けつける。町長の指示で、担当課は、そんなシステムを検討する。

 島民にも衝撃を与えた。いくら、光ファイバーがついても、島民同士の絆(きずな)を再構築しないといけないのではないか、と。

 島の自治会長、村上哲也さん(66)は、ほかの地区長らと話し合い、8月、島全体の自主防災組織を発足させた。「体調はどう?」「何かあったら、連絡しいよ」。自らが先に立ち、少しずつだが、近所のお年寄りの自宅を回り、声かけを始めた。

 村上さんが小学生の頃、島では隣近所が一つの家族のように暮らしていた。村上さん方の五右衛門風呂には、近くの2、3家族がもらい風呂に来た。逆に村上さんはちらしずしや、饅頭(まんじゅう)のおすそ分けに預かった。

 北側の因島(広島県)にあった造船会社が活況を呈し、生名島にも職を求める若者たちが押し寄せた。NHKの番組で「理想の島」とまで紹介された。が、不況で人口が減るのに伴い、人間関係も希薄になっていった。

 ITの目と人の目。孤独死を繰り返さないためには、どちらも欠けてはならないだろう。

 孤独死 看(み)取る人もなく、一人きりで死ぬこと。1995年の阪神大震災後、復興住宅で亡くなる高齢者が増えて社会問題となった。内閣府が今春発表した「高齢者の地域におけるライフスタイルに関する調査」では、60歳以上の43%が「身近な問題」と感じていた。大都市ほど心配する傾向が強いが、町村でも36%に上った。