共生のまちで:ルポ基町 安否確認 見守り合う場「ふれあいサロン」/広島

2010年10月21日 毎日新聞

ストレス解消、癒やしにも

 今夏は高齢者の安否確認が社会問題となった。中区基町の市営高層アパートを訪ねてみると、近くの商店街の一角から明るい話し声が聞こえた。高齢者が集う場として、基町地区社会福祉協議会が空き店舗に開設した「ふれあいサロンほのぼの基町」。
一人暮らしの高齢者たちが買い物ついでに立ち寄り、お互いが元気でいることを確認する場所だ。

 基町地区の住民4509人(住民基本台帳登録者。外国人登録者は含まず)のうち、65歳以上が48%。広島市全体(20%)より格段に高い。市営高層アパートに入居する2333世帯のうち、65歳以上の単身世帯は35%を占める。

 かつては巡回相談員が週3回程度、一人暮らしの高齢者の安否確認などをする市の事業があったが、03年度末で廃止に。05年度には基町で孤独死した高齢者は13人に上った。民生委員の活動だけでは限界があり、07年9月、高齢者がお互いを見守り合う場としてサロンを開設した。社協の事務所も兼ねる。

 サロンは週3日開き、ボランティアの登録スタッフが交代で当番を務める。登録者約70人の大半が高齢者で、壁に掲げられた「遠くの親せきより近くの他人」という合言葉が印象的だ。

 1日にサロンを訪れるのは10人前後。お茶を飲みながら、世間話をする。車椅子で訪れた永浜悦子さん(71)は「一人暮らしで、家にいても話し相手がいない。ここではいろんな話ができて楽しい」。ボランティアの加島郁子さん(67)は、同居する母(88)の介護をしながら母がデイサービスに行った日にサロンの当番をしている。加島さんは「いろんな方と話ができ、ストレス解消、癒やしになる」と語った。

 お互いの会話の中で「最近、あの人の顔を見ない。心配じゃ」といった情報が寄せられる。サロンから民生委員らに連絡し、安否確認をする。昨年度の孤独死は数人にまで減った。同じ問題を抱える県内外の地域から、行政職員やNPOなどが視察に訪れる。

 サロンでよもやま話を聞きながら、運営委員長の徳弘親利さん(69)は言った。「高齢者を一番心配するのは行政じゃない。最終的には隣近所に頼るしかない。明日はわが身、お互い様なんです。近くの他人同士で見守り合う絆(きずな)が必要なんです」【樋口岳大】