高齢者はいま…:つなげ地域の輪/上
万一の際、連絡先になってほしい… /栃木

2010年10月14日 毎日新聞

担い手はボランティア 1人暮らしの見守り

 「万一の際の連絡先になってほしい」。宇都宮市西部で約10年間、民生委員を務める女性(61)はある日、訪問先の独居男性(65)にそう頼まれた。男性は経営する会社が倒産。生活保護を受けながら借家住まいしていた。

 毎月1回、男性の元へ通い続けて2年。頑(かたく)なだった男性が話をしてくれるようになった。だが、自分の身の上については「天涯孤独」と口を閉ざすばかり。
女性は法的権限のない民生委員の限界も感じ、「親族がいるなら連絡先を聞きたいが、これ以上プライバシーにはなかなか踏み込めない」ともどかしさを募らせる。

 女性ともう一人の民生委員の2人で担当する地区には約700世帯が居住。住民票の記載内容と実際の家族構成にはずれもあるため、民生委員を引き受けてすぐに全世帯を訪問して確認した。
担当地区の独居高齢者(65歳以上)は23世帯。月に1回訪問するにはほぼ毎日足を運ぶ必要がある。ボランティアの仕事としては負担も大きいが、女性は「毎週顔を出したい。本当はそれくらい行った方がいい」と感じている。

 宇都宮市では1人暮らしの高齢者の地域的な見守りを、民生委員、福祉協力員、自治会、老人クラブなどが担う。行政とのパイプ役として、地域住民の保健や福祉の向上、介護予防マネジメントなどを総合的に行う「地域包括支援センター」が市内に25カ所ある。同センターは、市が病院や介護施設などに委託し、民生委員の情報などを基に、日常的な高齢者の生活実態の把握や相談・支援を行う。センター1カ所当たり約1500~6000人の高齢者を地域に抱える現状に対し、職員はそれぞれ5~8人で対応している。

 親族間同様、地域のつながりが希薄になっている。しかし、1人暮らしの高齢者を地域で見守る担い手はいずれもボランティアに頼らざるを得ないのが実情だ。
女性は「給与が出る仕事として、見守りをする人が必要」と痛感している。要員不足が深刻化する中、態勢の整備は急務だ。

 05年国勢調査によると、県内の独居高齢者は4万1400人。今後15年間で8万6000人に倍増するとの予測もある。急速に進行する高齢化。所在不明に象徴される通り、高齢者を取り巻く問題の根は深い。
安心して老後を迎えられる社会の構築に何が必要か。現状と課題を探った。