絆はなぜ切れた:高齢社会の家族 番外編/上 孤立しない社会、どう築く
2010年10月06日 毎日新聞
9月20日から5回連載した「絆(きずな)はなぜ切れた~高齢社会の家族」に、さまざまな反響をいただきました。血縁、地縁が希薄になったいま、高齢になっても孤立しない社会をどう築いていけばいいのでしょう。まずはデータや行政の取り組みから考えてみました。【山崎友記子、遠藤和行、清水優子】
◇65歳以上、大都市圏で急増へ 行政の取り組み、限界も
「子どもたちとは20年以上会ってません。親子の縁は切りました」。東京都新宿区の木造アパート。エアコンもない部屋に1人で暮らす女性(78)は淡々と話す。
青森県の農村生まれ。10人きょうだいの三女で、実家はリンゴ畑をいくつも持っていた。自衛官と結婚したが、給料を家に入れない。逃げるように上京し、働いた。自立した子たちと疎遠になったのは、財産を無心され土地を手放してからだ。「取れる物を取ったら親はお役ご免です」。今は生活保護と年金、ボランティアの見守り訪問が支えという。
国立社会保障・人口問題研究所によると、大都市圏では今後、高度成長期に移り住んだ地方出身者の高齢化で65歳以上の人口が急増する。2035年の推計を05年時点と比べると、3大都市圏を中心に11都府県で75歳以上が2倍を超え、埼玉県は最高の2.79倍。家族構成では30年に一人暮らしが378万世帯増え1824万世帯、その約4割が65歳以上となる。
高齢者が独居になると、日本は親子が疎遠になりがちだ。内閣府の「高齢者の生活と意識に関する国際比較調査」(05年度)によると、会ったり連絡を取る頻度が欧米や韓国は「ほとんど毎日」「週1回以上」が6~8割だが、日本は「月1、2回」が最も多い。
相次ぐ孤独死などを受け、行政も対策を急いでいる。06年施行の改正介護保険法で、国は高齢者支援の中核拠点となる「地域包括支援センター」を全国約4000カ所に設置。今後、高齢者の家族構成や健康状態の把握を自治体に求めていく方針。だがセンターが担う事業は多岐にわたる。都内のあるセンター職員は「本気で独居高齢者を把握するには1軒ずつ訪問するしかないが、人員的に難しい」と打ち明ける。
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一方、内閣府が推計70万人と公表した「ひきこもり」も、社会とのつながりがないまま高齢化し、所在不明や孤独死の予備軍になると懸念されている。若者がひきこもる背景には雇用環境の悪化に加え、「親子の情緒的な絆の希薄化がある」と調査に参加した専門家は指摘する。
NPO法人ニュースタート事務局(千葉県浦安市)は寮生活をしながら就業体験を積む6カ月間の「合宿型若者自立プログラム」を実施している。群馬県から来た男性(33)は就職を巡る両親とのあつれきで3年間ひきこもったが、父親の定年が迫り将来に不安を覚え、一歩踏み出した。「親に申し訳ないと思っても、動けなかった。ここに来て、悩んでいるのは自分だけじゃないと分かり、前向きになれた」と話す。
プログラムは厚生労働省の基金訓練の一環で、受講は無料。しかし9月時点での実施は22団体、総定員は415人どまり。基金訓練は年度末で終了し、来年度以降も続くかは不透明だ。同法人の二神能基代表は「若者を『無縁死』におびえる中高年にしないため、社会とつながる場を作っていかなければ」と訴える。
孤独死や家庭内孤立、虐待が深刻化する理由は、個人主義が進んだことが大きい。高橋紘士・国際医療福祉大大学院教授(福祉政策)は「こうした問題に行政が税金で対応するには限界がある」と指摘。「元気な高齢者が仕掛け人になって新しい地域共同体を作り出したり、お年寄りも子どもも交ざり合って暮らす『長屋型』の住まい方を、時代に合った形で復活させてはどうか」と提言する。(次回は読者の声を紹介します)