【長寿社会の虚実】第2部 地域・行政の限界(中)抜け出せぬ縦割り

2010年09月19日 産経新聞

 8月6日、民主党が立ち上げた「所在不明高齢者問題対策検討チーム」の会合で、こんな光景があった。

 「どうぞよろしく」。会合が開かれた議員会館に呼ばれた厚生労働省の職員と総務省の職員が、互いに頭を下げながら名刺交換をしていた。初対面だったようだ。

 法務省の調査では戸籍上は「生存」していることになっているものの、現住所が分からない100歳以上の高齢者は23万人にもなる。住民基本台帳との整合性もとれていない。

 出席した議員の1人は「各省庁の制度管理の杜撰(ずさん)さ、意思疎通不足が原因になっているのではないか」と指摘した。名刺交換のシーンは、そんな発言を象徴する光景だった。

 福祉や年金行政を担う厚労省。住民基本台帳ネットワークを管轄する総務省。戸籍管理の元締めである法務省。行方不明事案に対応する警察庁。そして地方自治体。それぞれが縦割り行政をしている。





 政府は今回の問題に関し8月に相次いで関係閣僚会議を開くなど、縦割り行政に“横串”を刺すべく必死だ。

 仙谷由人官房長官は「自治体と厚生労働省が中心となる。関係省庁の知恵も集めたい」と発言。それを受ける形で長妻昭厚労相(当時)は、省庁を横断した「所在不明者や年金事務の実態把握」「高齢者の孤立化対策」に意欲を見せた。

 だが現実には縦割りの壁は高く強固だ。

 厚労省が1カ月半をかけて打ち出したのは、「年金機構の職員による110歳以上の高齢者への面会確認」「遺族らが年金を不正受給していないかをサンプル調査」といった年金担当部局でできることばかり。他省庁が絡んだ総合的な対策は見えてこない。

 国と地方自治体の連携もちぐはぐぶりが目立った。

 国は毎年、新たに100歳になる人に自治体を通じて記念品を渡している。今年は長妻厚労相が「面会して所在を事前確認」の原則を自治体に要請した。

 しかし、要請に従って、実際に面会確認がされたのは対象者2万3269人(9月1日現在)のうち、35%の8213人だけ。

 「記念品はすべて手渡ししている。事前の面会は二度手間」。面会確認をしなかった、さいたま市の担当者はそう語り、国の要請の無意味さを指摘した。





 省庁間だけではない。自治体内部でも縦割り行政の弊害がみえる。

 神戸市東灘区の私鉄沿線の住宅街にある市立公園。中央に桜の木があり、春には花見を楽しむ近隣の人たちでにぎわう。

 生きていれば国内最高齢となる125歳の女性は住民登録上、この公園に住んでいることになっていた。

 公園が整備されたのは29年前。東灘区では20年近く前に、健康福祉課の担当者が公園に足を運び、女性の所在不明を確認していた。だが住民基本台帳から消されることはなかった。

 こうしたケースでは一般的に、自治体の判断で住民基本台帳から氏名を抹消する「職権消除」がされる。消除の担当は同じ役所内にある市民課。

 東灘区の健康福祉課の担当者は「部署間の連携ミス。まさに行政の縦割りの弊害。所在不明の情報を市民課に伝えるという発想が欠けていた」と反省する。

 同じようなケースは各地の自治体で露見している。

 厚労省幹部が高齢者の所在確認対策について、こんなことを言っている。「本腰を入れるためには、縦割りを排して、他省庁や他部署との連携が重要なのは分かりきったことなのに…」。だが、その分かりきったことができていない。