高齢者の安否 見守りお任せ 民間サービス多彩に 看護師と自宅から会話
2010年06月03日 日本経済新聞
一人暮らしの高齢者世帯が増えるなか、高齢者の安否を見守るサービスが登場している。ボタン一つで24時間いつでも看護師と話せたり、家電製品やガスなどの利用状況から高齢者の様子を見守ったりと、サービス内容は様々だ。
急な病気やけがなどへの備えがあれば、高齢者だけでなく離れて暮らす家族にとっても安心。健康状態や家族のサポート体制などを考えながら、自分にあったサービスを選びたい。
「あのまま誰にも気づかれなかったら、どうなっていたか……」。埼玉県に住む高木尚子さん(仮名、78)は1カ月前、自宅の風呂場で転び、動けなくなった。たまたまその日は車で1時間ほどの所にすむ娘(53)が訪ねて来る日だったため事なきを得たが、もしも訪ねてくる人がいなければ、数日間そのままで苦しんでいたかもしれない。
増える一人暮らし
2010年版の「高齢社会白書」によると、一人暮らしの高齢者は400万人を超え、今後も急激な増加傾向が続く見通し。家族と一緒に暮らす高齢者に比べて健康に不安や悩みを抱えている人が多いという調査結果もあり、「いざという時への備えがあれば」と考えている人は多そうだ。
高齢者の安否確認といってまず誰もが思い浮かべるのが、自治体やボランティアの人たちが定期的に自宅を訪問したり、電話で話したりしてくれるサービスだ。ただ、地域によって導入の内容などにばらつきがあるほか、年齢や健康状態などで提供してもらえる条件が決まっており、比較的健康な高齢者の場合利用できないケースもある。民間企業のサービスは費用はかかるが誰でも利用できる点で、「日常生活に支障はないが、何かあった時のために」という人には役に立つだろう。主なサービスを表にまとめた。
(表 割愛)
緊急通報サービス大手の安全センター(東京・大田)は、「お家でナースホン」という個人向けサービスを提供している。室内に取り付けた専用装置のボタンを押すと、看護師などが常駐するコールセンターにつながる仕組みで、急に具合が悪くなった時などに対処法のアドバイスを受けたり、救急車の手配をしてもらったりできる。緊急通報は自治体からの委託でサービスを提供している場合が多いが、同社の個人向けサービスは「普段から問題の予防や予知発見に力を入れている」(木村智司常務)という。
「ナースホン」では、月に1回、センターから高齢者宅に電話して、健康状態の確認をしている。コールセンターのスタッフは顧客ごとの履歴を見ながら会話し、何かしらの異常に気付いたら医師への受診を勧めるなどの対応を取る。肩がこる、背中が痛いといった訴えから心臓病などの早期発見につながったケースもあるという。緊急時でなくても、顧客の側から「相談」のボタンを押せば、随時健康相談を持ちかけることもできる。
行動の様子を検知
家電の利用状況や行動の様子をセンサーで検知して、間接的に高齢者の様子を見守るサービスもある。アートデータ(東京・世田谷)の「安否確認サービス」は、冷蔵庫などのドアにつけたセンサーで開閉状況を調べたり、トイレの入り口やベッドの下に置くマット状のセンサーで、高齢者が移動する様子を検知して、異常があった時に家族などにメールで知らせる。
「昼過ぎになっても冷蔵庫を開けた様子がない」「ベッドに寝たまま動かない」といった場合を「異常」として知らせるほか、トイレに行く回数が普段よりも多い場合などは「不安」として知らせる。
象印マホービンの「みまもりほっとライン」や東京ガスの「みまも~る」はより緩やかな見守りサービスだ。電気ポットやガスの利用状況を1日に1~2回、メールで知らせる。異常を自動的に知らせる機能はないが、普段からの生活パターンを把握していれば、いつもと違う行動に対して「何かあったのでは」と気づくことができる。
セコムは4月から携帯電話などを使い、高齢者の自宅の様子などを見ることができる無線画像伝送システムを発売した。高齢者の自宅内に無線カメラと通知ボタンを設置。体調不良を感じた時などに高齢者がボタンを押すと、外にいる家族などにメールが送信され、テレビ電話を通じて部屋の中の様子を見ることができる仕組みだ。
ホームセキュリティーでも高齢者向けのサービスを提供しているが、防犯が主体となるため月額利用料は6500円程度から(一戸建ての場合)と割高。「見守り」に機能を限ることで、利用料を安く設定した。
緊急時にメールなどで連絡をもらった場合、すぐに訪ねて行けるような場所に家族がいられればいいが、遠く離れて暮らす場合もある。「ナースホン」や「安否確認サービス」では地域は限られるものの、あらかじめ登録した駆け付け要員やタクシー会社の運転手に家庭訪問するよう頼むことができる場合もある。