【生活白書2009 老後】病気・孤独死…不安な生活

2009年12月26日 読売新聞

 東京都内のアパートに一人で暮らす87歳の男性は、一日の大半をテレビを見て過ごす。親族や近所との付き合いはほとんどない。「何かあった時に助けてくれる人がいないのが不安」と話す。

 少しでも外出して他人と接する機会を増やしたいと、シルバー人材センターに登録して仕事を探すが「登録者が多くて仕事がまわってこない」と嘆く。

 千葉県に住む69歳の女性も、「ずっと独身を貫いてきたが、年齢を重ねるに連れ、一人で暮らす不安を感じる」と話す。

 かつてはタイピストとして働き、「女性も一人で自立して生きていける」との自負があった。だが、ワープロやパソコンの普及で仕事がなくなり、最近はパートの仕事で食いつないでいる。「一人で病気になったら今の収入だけでは生活できないが、恥ずかしくて友人にも不安を打ち明けられない」とこぼす。


 2009年版の「高齢社会白書」によると、65歳以上の高齢者のいる世帯は全体の4割に達する1926万世帯。このうち単身世帯(23%)と夫婦のみ世帯(30%)で過半数を占める。

 高齢者のみの世帯の生活実態を調査する明治学院大教授(地域福祉論)の河合克義さんは、「日常生活の困りごとがあっても頼れる家族がいないし、近隣との付き合いも薄い。高齢者の社会的孤立を防ぐため、地域での専門的な見守り策が必要だ」と言う。

 高齢者の困りごとの中では今年、「買い物難民」の問題が大きくクローズアップされた。消費の冷え込みで中心市街地のスーパーなどが撤退し、車が運転できない高齢者が買い物に困るケースが相次いだ。

 こうした事態に、経済産業省は先月、高齢者の買い物環境の改善を目指した研究会を発足させた。

 今月初めには、都市部の高齢者の孤立防止策として、東京都新宿区に国の委託を受けた「ふれあいセンター神楽坂」もオープン。地元の主婦らが訪れたお年寄りの話し相手になり、衣食住にかかわる困りごとを発見する。その情報を、支援ができる関係機関に知らせて、必要なサービスを提供してもらうモデル事業だ。

 ただ、こうした取り組みには思わぬストップもかかった。行政刷新会議の「事業仕分け」で、「ふれあいセンター」などの見守り支援や「買い物難民」解消に向けたモデル事業が、来年度は「廃止」の対象になってしまったのだ。

 ふれあいセンターの事業を統括する慶応大医学部教授(健康科学)の信川益明さんは、「人と人との結びつきの強化は、孤独死から経済的な困窮まで防げる重要な手だてなのに」と残念がる。

 生活不安を抱える高齢者たち。つながり支え合う関係の再構築が、求められている。