高齢者見守るNPO法人入居 「福祉長屋」自由で安心/東京

2009年08月09日 西日本新聞

 一般の賃貸マンションに、地元の特定非営利活動法人(NPO法人)が入居し、高齢者の生活を支援する新しい形の賃貸集合住宅「福祉長屋(コミュニティハイツ)」が注目を集めている。不動産のオーナーとNPO、入居者それぞれのニーズをうまく取り入れた長屋は、各地に広がりそうだ。 (東京報道部・塚崎謙太郎)


一般の賃貸住宅使い運営 安否確認や生活支援

 「おはようございます、お変わりありませんか。今朝はずいぶん冷えましたね」。東京郊外、西東京市にある4階建てのオートロックマンション。1階に入居するNPO法人「サポートハウス年輪」の職員・関隆次朗さん(51)は、毎朝午前8時15分ごろ、入居する高齢者に安否確認の電話をかける。365日、1日も欠かさない。確認できないときは、早朝に外出した可能性もあるので、翌朝まで様子をみて、保証人の親族に連絡を取る仕組みだ。部屋の鍵は預かっていない。

 NPO法人は、福祉長屋に入居する高齢者とLSA(ライフサポートアドバイザー)契約を結ぶ。月額1万円。朝の電話や福祉相談などのサービスを提供する。NPOの事務所は夜間不在となるので、高齢者の部屋には緊急通報装置(月額4200円)を備えている。

 18世帯のうち6世帯が70-80代の独居高齢者。車いすの要介護者が1人で、あとは元気に自立している。ほかは単身者や若い家族が入居する普通の集合住宅だ。

 関さんは安否確認のほか、新聞や郵便物を部屋に届けたり、頼まれればゴミ出しや電球交換も手伝う。「サービスの提供、というよりも近所付き合い。昔なら当然の助け合いです」と関さん。福祉の専門家が常に近くにいることは、本人やその家族にとって心強く、安心だ。

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 福祉長屋を提唱しているのはNPO法人・市民福祉団体全国協議会(市民協)。介護保険制度が始まった2000年から、地域の福祉NPOと不動産オーナーを結び付ける福祉長屋を展開。現在、関東と北海道のマンション8カ所(既存6件、新築2件)にある。

 大きな特徴は「老人ホームや施設よりも自由で、ふつうの1人暮らしよりも安心」(市民協)であること。どこかに移り住みたいが、食事や風呂、部屋の鍵まで管理・規制されるような高齢者施設にはまだ入りたくないし、一般の賃貸住宅はいざというとき不安という人は少なくない。中間に位置するのが長屋付き合いの住環境。賃貸だから、退去する自由もある。

 不動産オーナーにとって空室対策になる上、「多世代でNPOが入居していれば、人の出入りが多く、防犯面でも安心。孤独死も防げる」(都内のオーナー)という利点があり、地域福祉にも貢献できる。
 福祉NPOにとっては、地域の活動拠点が半額の家賃で借りられ、活動の充実につなげられる利点がある。都内・東久留米市のマンションでは、NPO法人「ゆぃまある」が15室のうち1室を事務所、もう1室を高齢者向けサロンや訪問看護ステーションとして活用。サロンではカラオケや料理などを楽しめて、入居者も含め、地域の高齢者にとってよりどころとなっている。

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 各地の福祉長屋には車いすの障害者や軽い認知症の人も入居しているが、大半はまだ自立している高齢者。老いが進んでいく今後は、医療との連携が課題となる。

 市民協は、新築・既存の賃貸住宅を福祉長屋に活用するための条件に
(1)地元にNPOがある
(2)賃貸事業が成り立つ
(3)2-3LDKが標準
(4)エレベーターがある
を挙げている。今後、福祉長屋を全国拡大し、高齢者だけでなく、子育てNPOとの連携も見据えている。

 老いはすべての人に等しく訪れる。福祉長屋は、老いゆく過程をどう暮らすかという新たな選択肢になりそうだ。