地域で目配り、異変察知 志摩市「あんしん見守りネット」

2009年07月14日 中日新聞

 高齢者ら支援の必要な人や家庭を地域で見守る、志摩市の「市あんしん見守りネットワーク」が成果を挙げている。福祉とは無縁だった人が「あんしん見守り協力員」となり、日常業務や生活の中で地域を目配り。市と連携を図ることで、虐待の早期発見など迅速な支援につなげている。

 同ネットワークは2007年に構築。自治会や民生委員、金融機関、商店、医療など幅広い分野の関係者が登録。当初、約300人だったのが、今年6月現在では約770人まで増えている。

 主な役割は、高齢者や子ども、障害者への虐待の早期発見▽生活困窮や困り事のある家庭の早期発見▽徘徊(はいかい)高齢者の安全確保▽独居高齢者の安否確認-など。気になる家庭を見つけたら、市ふくし総合支援室に連絡する。

 成果として顕著なのが高齢者虐待の早期発見だ。志摩市の07年度の高齢者虐待の相談・通報受理件数は82件で、県全体の約5分の1を占め県内自治体で断トツのトップ。このうち虐待認定件数も54件と県内最高だ。

 08年度の通報・相談件数は101件とさらに増え、認定件数も64件に。このうち、協力員による通報が15件(うち虐待認定は7件)あり、ケアマネジャーら高齢者と深くかかわる介護専門職に次ぐ多さだ。

 認定件数の多さは、虐待の発見率が高い証拠。県長寿社会室の吉田一生室長は「発見率としては日本一といえるのではないか。(地域ぐるみの見守りで)網の目を細かくし、しっかり情報が上がってくるのは理想的」と称賛。「住民単位で意識付けができている」と目を見張る。

 通報のうち虐待と認定されなかった件数が多いのも志摩市の特色。ふくし総合支援室の社会福祉士前田小百合さんは「認定はしなくても、何らかの支援が必要なケースにはなる。深刻化する前に対処でき、早期の連絡はありがたい」と話す。虐待以外にも、「一人暮らしで認知症の人がいる」など、支援が必要な家庭の情報提供が、協力員から年間数百件あるという。

 協力員に登録する阿児国府郵便局の水谷昭仁局長(47)は、高齢者らの預金が家族に勝手に引き出されるといった経済的虐待がないか気を付けることはもちろん、幅広い目配りを心掛けている。

 「年金の受給日に決まって局を訪れる人が来なかったりすると、『何かあったんかな』と訪ねたりします。異変があれば何らかのシグナルが出る。それにどう気付くか」と心構えを話す。

 志摩市の高齢化率は今年3月に30%を突破した。高齢化対策にもなる支え合いの取り組みは注目を集め、伊賀市など他自治体でも同じようなネットワーク作りが始まっている。

 前田さんは「ネットワークは、監視ではなく手助けのための第一歩。ちょっとおせっかいな隣人関係をつくり直すための仕掛けです」と強調する。(飯田竜司)