岩手県立大…お年寄りの手足となる

2009年03月10日 読売新聞

先輩と研究

 岩手県滝沢村の名物といえば、岩手山の雄姿と、農村の風物詩「チャグチャグ馬(うまっ)コ」。4年制大学が二つあるのも村民の自慢だ。

 その一つ、県立大の社会福祉学部の学生たちが、別の村へお年寄りの訪問調査に出かけると聞いて同行した。

 「寒いなか、よくおでんした。さあ中さ」。川井村の古い民家で黒沢キミさん(81)が迎えてくれた。お年寄りが人口の40%を超すこの村の中でも高齢化が目立つ山間の集落。大学からは車で1時間半ほどかかる。

 キミさんのような独り暮らしの人々を支援するため、大学が地元とともに5年前から取り組んでいるのが、「高齢者安否確認システム」のモデル事業。インターネットに接続できる電話機のタッチパネルに「げんき」「すこしげんき」「わるい」の三つのボタンがあり、利用者は毎朝どれかを押してその日の体調を知らせる。

 これをもとに、村の社会福祉協議会の職員が電話や訪問をしながら見守る。「毎日連絡するので、友だちが増えたみたいでござんすよ」と話すキミさん。家に閉じこもりがちだったが、今では近所の利用者のリーダー的な存在に。「孫みたいな学生さんたち」と時々会うのも楽しみだという。

 山村では「他人の世話にならない」「迷惑をかけたくない」という“遠慮の文化”も根強い。小川晃子教授(54)は「お年寄りの暮らしを知り、福祉とは何かを学んでほしい」と語る。

 大学は1998年に開学。光通信や半導体の世界的な権威、西沢潤一氏を初代学長に迎え、少人数教育に独自色を打ち出した。

 ソフトウェア情報学部に導入した「講座制」は、その代表例。1~4年生が同じ研究室で学ぶため、学生からは「先輩が失敗談などもしてくれるので心強い」といった声が聞かれる。研究室ごとに24時間対応の学習スペースがあり、全員が自分の机とコンピューターで勉強できる。

 学生のアイデアや自主性を生かす姿勢も、この大学の特色となっている。そのシンボルが「学生ボランティアセンター」だ。

 設置を提案したのは、3年生の浅石裕司さん(21)。2007年に新潟県中越沖地震の支援活動に加わったのがきっかけで「大学にも常設窓口を」と思いついた。

 センターは運営も学生が中心で、電話などで地域の要請を受けては出動する。民家の雪かき、防災対策の講習、高齢女性向けのお化粧の出前、車いすのお年寄りの温泉旅行の介助など、活動は多岐にわたる。

 昨年4月の発足から1年で、出動は約50件を数えた。センター代表の浅石さんは「ボクたち若い力を必要としてくれる人が多くてうれしい」と手応えを語る。


賢治の精神

 近代的な建物が並ぶキャンパスには、隠れたモチーフがあると聞いた。

 岩手が生んだ詩人、宮沢賢治の童話「銀河鉄道の夜」。正門近くの芝生に浮かぶ渦巻きの造形は銀河系を、校舎外壁の十字形の飾りは夜空の十字星を象徴するという。

 これから刻まれていく大学の歴史にも、賢治の作品のような自由とロマンを添えてほしい。(奥田祥子)