不安社会 第1部=売れるセキュリティー
(4)独居高齢者/安否確認家電が一役

2008年01月25日 河北新報

 年を取ると、住み慣れた土地を離れるのは気が進まない。遠くに暮らす子どもは心配だ。毎日の様子を自動的に伝える機器があれば、役に立つのではないか。
 「東北への進出を考えている。山間地や豪雪地帯ほど、わが社の開発したカデモの需要は大きいはずだ」

メールで利用情報

 山口県周南市の情報通信会社「周南マリコム」の堀信明社長(63)は東北に熱い視線を送る。カデモとは、「家電モニタリング」から名付けた同社の商品だ。家電を通して、高齢者の単身生活を遠隔地から見守るシステムで、山口県産業技術センターと共同で開発した。

 親機と子機3台の構成で、子機に家電製品のコードを挟む。子機は流れる電流を感知して家電の利用頻度を記録。その情報をNTTの回線を使い、電子メールで1日2回に分けて送る。見守る側の携帯電話やパソコンには例えば、こんなメールが届く。

 <生活状況のお知らせ>(1月24日9時現在)
▽リビングテレビ(23日19時27分~23時56分)
▽電子レンジ(23日20時~20時1分)
▽寝室テレビ(23日23時59分~24日0時8分)

 高齢者が倒れた場合を想定し、長時間未利用が続いた場合もメールが届く。堀さんは「いくら心配でも、四六時中カメラで見張るわけにはいかない。プライバシーに配慮し、互いに負担感のないようにした」と言う。家電は生活必需品。使われていれば、元気な証拠というわけだ。


「離れても安心感」

 機器代は12万円、使用料として月3800円掛かる。2006年1月に発売し、山口県内を中心に約70組が利用している。「遠くにいても、近くにいるような安心感がある」と好評で、さらに利用が拡大しそうだ。

 独居高齢者の見守りサービスは2000年代に本格化した。草分けは象印マホービン(大阪)が01年に全国で提供を始めた「iポット」。無線通信機を内蔵した電気ポットの利用状況が、「6時26分電源、6時45分給湯」といった具合に1日2回メール送信される。

 仙台市太白区の会社員林慶昭さん(50)は、03年春からiポットを契約している。父親が病死し、大崎市古川の母親(79)が独り暮らしを始めたのがきっかけだ。仙台での同居も誘ったが、母親は近所付き合いもある住み慣れた所を望んだ。

生活リズムを測る

 電話は週1回かけ、月に1度は訪ねる。母親の健康状態もほぼ良好。だが、不安は消えない。「万が一、一人で倒れたまま発見が遅れるということは避けたいんです」

 母親は毎食後のお茶が習慣で、そのたびにポットを使う。このためメールで届くポットの利用状況は、生活リズムを測るバロメーターでもある。

 林さんは「見えないけど、つながっている感じがする」と語り、母親は「いつも見てもらえてると思うと安心だ」と言う。費用は契約料5250円、利用料が月3150円。年間約500件の新規申し込みがあり、約3000組が利用する。

 05年国勢調査によると、全国の65歳以上の独居者は405万人で、2000年に比べ33%増えた。高齢者全体の15%を占め、男性の10人に1人、女性では5人に1人が独り暮らしだ。

 今後も増加が見込まれる独居者対策として、名古屋市では、東邦ガスと市水道局、NTTが、居住者のガス・水道使用量を常時把握し、安否確認に生かすシステムを開発した。10年ごろの実用化を目指す。

 家電やガス、水道。ライフラインを活用した見守りが、高齢社会の新たなセーフティーネットになりつつある。

◎記者ログ~取材ノートから~/従来型の制度も大事に
 独居高齢者の見守りは、民生委員の訪問や緊急通報システムの整備など、福祉行政の枠で行われることが多かった。そこに企業が参入し、利用者の選択肢が増えていることが、最近の特徴だ。高齢社会の不安の一断面といえる。

 カデモを開発した周南マリコムは、1989年に誕生したベンチャー企業だ。港湾無線局を運営する傍ら、「24時間体制で港を守るノウハウは福祉にも生かせる」と考え、独居高齢者のSOSに応じる緊急通報・生活サポート事業を99年に始めた。看護師ら相談員の電話応対が好評で、中国・九州地方で約1万人が利用する。
 企業のサービスはきめ細かくて便利だ。ただ、経済的な理由などから使えない人もいる。行政が担ってきた従来型の安否確認制度も、引き続き大事にしてほしい。(F)