孤立死の共通点「ケアを受けたくない」-厚労省会議(2)

2007年09月02日 ケアマネジメントオンライン

 8月28日、厚労省は「第1回高齢者などが一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議(「孤立死ゼロ」を目指して)」を開催した。推進会議の議員は任期を1年とし、年度内に提言をまとめることをめざす。


※以下は配布資料より抜粋、まとめ。

推進委員からの報告

●地域社会でリスクの共有を

議長からは、孤独死の背景にあるものとして、高齢者のうつ病患者が増えているという指摘があった。
これまでは日本の高齢者問題といえば「寝たきり」についてが主だったが、現在は高齢者の孤独も問題になってきている。うつ病をわずらう高齢者に多いのが「この家は自分の代で終わりだ」という思い。一人暮らしというのは多様なライフスタイルの一つではあるが、一人で亡くなる人の死後の片付け、処理にはたいへんな社会的なコストがかかるのも事実。
私たちの最後の姿として、孤独死のリスクは誰しも背負っている。地域社会の中でそのリスクを共有していくべきで、今までの福祉の考え方では成り立たないところにきている。


●孤立死の共通点は「ケアを受けたくない、人に迷惑をかけたくない」

東京で病院の院長を務める委員からは、週に何度かの透析など在宅医療を担当する中で、孤立死のケースを経験してきたが、最近もあった、と語られた。
孤立死の共通点は、「ケアを受けたくない」という気持ち。ケアを提供する側は説明をするけれど、「世話になりたくない、関わってほしくない」という心理が働くようで、「人に迷惑をかけてはいけない」という高齢者の意識は強い。
認知症などでも、家族に迷惑をかけたくないから施設で暮らし続けたいと話す高齢者もいるが、本音はやっぱり自宅に帰りたい。「迷惑をかけたくない」という高齢者に、社会福祉は「ご苦労様でした」と感謝をこめて提供していかなければ。
孤立死に共通する人の、ケアの少なさ。看護師などともめている人も多い。専門職だけの問題ではなく、地域の人にも「支えるんだ」という視点がほしい。
国土交通省の資料で帰属コミュニティという話が出たが、若い人にも帰属コミュニティは必要。高齢者が何を求めているかを引き出すことが大切で、気持ちを開くことができるのがコミュニティの目的。それがないと、国がどんな施策をしてきても活きてこない。


●若い人も大変な時代だ

全国老人クラブ連合会の代表者である委員からは、高齢者の心理について語られた。
年をとると自分の殻にとじこもりがちになる。人との別れが多く、体も思うように動かなくなってくる。頭も鈍ってきたような気がする、などという不安ややるせなさからそうした心理が起こる。
老人クラブは、人と関わることで自分が助けられ、自分もほかの人の役に立つという「自助・共助」をモットーに活動している。若い人だって大変なこの時代、自分でできることは自分で、という考え方でいる。
老人クラブとして訪問するときは、友達として訪れている。お隣同士、友達同士として気に掛け合う友愛活動をしている。
※老人クラブは全国に804万人の会員がいる。


●ネットワークから外れた人の把握を

大学で高齢者の住環境を長年研究している委員からは、「見守り」の重要性の指摘があった。
単身高齢者の3分の1は借家居住であり、今後の居住も不安定でこれまでも地域との関係は希薄だったという問題がある。「住生活基本法」で大きく変わったが、高齢者住宅というハコ(ハード)だけでは不十分で、サポートできる体制が大切。
必要なサポート(サービス・ソフト)は4つ。

①見守りサービス機能の確立
②家事サービス機能の確立
③介護サービスの提供
④万一の受け皿を準備

また、日常生活圏域の重要性を認識すべき。行政は「ここに駅があって、ここを道路が通って…」などという実際の地理的空間、都市空間を前提とした日常生活圏域を想定しなければならない。上空から見下ろすような把握の仕方では、ネットワークから外れた人、ネットワークを作れなかった人を見逃すことになる。


●高齢者の不安は日常の小さなことのつみ重ね

現役のケアマネジャーである委員は、きめ細かいインフォーマルな支援の必要性について述べた。
要介護者それぞれの人を認めるサポートが求められている。ケアマネジャーに対して比較的満足度が高い要素として、「個々に訪問する」というのがある。
インフォーマルな支援が必要だ。定期的な訪問では間に合わない、突発的でこまごまとしたもの。たとえばゴミ出しの問題、買物に一人で行くことはできるが、帰りに荷物を一人で持って帰ることができないなど、小さいことのつみ重ねが高齢者を不安にする。
現場レベルでの行政サービスの使い勝手の悪さも感じる。徘徊の人に携帯してもらうタイプの探知機などを渡しても、なかなか持ち歩いてくれないなど。
在宅支援センター、地域包括支援センター、ケアマネジャーの連携についての研修が必要。要介護認定が出るまでの空白をどうするか、2、3ヶ月のフォローをどうするかなどや、高齢者が亡くなった時の家族のグリーフケアなど、当たり前の支援を当たり前にできることがステップアップにつながる。


●住民活動だけではだめ、行政と組み合わせて

社会福祉協議会からの委員はインフォーマルな支援の意義、しくみについて、資料をもとにした確認があった。
住民の活動だけではだめで、もっと密度を高め、種類も増やし、行政と組み合わせていくことが必要。

資料:住民の福祉活動(地域の支えあい)の展開イメージ図より
・食事サービス(会食・配食)
・移動サービス
・ふれあい・いきいきサロン(利用者とボランティアが一緒に楽しい時を過ごす)
 → サロンの人間関係を自宅に戻っても継続
・住民参加型ホームヘルプサービス(有償・有料の助け合いサービス)
ほか


●家主の立場で孤立死について考える

都市再生機構(UR都市機構)からの委員は、公団住宅の家主として、孤立死の発生が増加の一途をたどっていることについて言及。
孤立死(孤独死)について法的な定義はないが、同機構では「病死または変死事故の一態様で、死亡時に単身居住している賃借人が、誰にも看取られることなく、賃貸住宅内で死亡した事故をいい、自殺または他殺を除く。」とする。
孤独死の発生件数は増えており、まだ高齢者数が頭打ちにはなっていないことから、今後もある程度の期間は増加するだろうと見込んでいる。

資料:「住戸内死亡事故発生件数」より


地域における高齢者の見守り活動としては、「安心登録カード」「安心コール」「ゴミ出しサービス」など。
このうち「安心登録カード」については、団地自治体として個人情報を取得したもの。個人情報保護法により情報取得が困難になっており、団地自治会による主体的な地域活動の展開を阻んでいる現状がある。
しかし、これらのサービスは希望者のみを対象とする手上げ方式であるため、孤独死対策としては十分に機能していない。


●孤独死の発見は地域社会に大きなショック

全国民生委員児童委員連合会の委員からは、民生委員制度創設90周年を迎え、活動を強化する方策について報告があった。
「民生委員・児童委員 広げよう地域に根ざした思いやり」行動宣言の中に、地域社会での孤立や孤独をなくす運動を提案し実践するという項目がある。
一人暮らしの高齢者の孤独死の発見は、地域社会に大きなショックをもたらす。孤立・孤独をなくすために地域住民と手をつなぐ取り組みを進める。
また「90周年活動強化方策」として、気がかりな人や身近に頼る人がいない地域住民を発見し、進んで声をかけ、相談にのり、地域サービスにつなぎ、見守るなど継続した支援を行う。


●認知症サポーターを育成

社団法人のマンション管理業者団体からの委員は、認知症サポーター育成の取り組みについて報告した。
高齢者事業に関してはハード面の管理を通してサポートしてきたが、最近はソフト面でも行えるようになり、認知症サポーターを5,000人育成した。この夏も認知症に関するイベントを企画している。
また調査研究として、都市型の小さな世帯の住居としてのマンションにとって独居老人は大きな問題だが、どこまで、どのように支援できるかを検討している。


●ホットライン・あんしん訪問・ほのぼのサービスが好評

北海道・旭川市の消防本部からの委員は、旭川市消防本部が行っている災害弱者緊急通報システム事業について報告した。
このシステムは「ホットライン119」といい、一人暮らしの高齢者など災害弱者の人々の緊急時の連絡体制を確立することで、日常生活の不安を解消し、人命の安全を確保することなどをねらいとしている。
7月末時点で5,264世帯に緊急通報装置を設置し、利用している人々からはたいへん好評を得ている。また、旭川市では訪問健康相談(「あんしん訪問」)や災害弱者訪問サービス(「ほのぼのサービス」)など
推進事業を行っている。


●手あげ方式ではだめ

新宿区職員の委員は、新宿区の一人暮らし高齢者率の高さなどについて報告した。
一人暮らし高齢者率は、65歳以上で全国15.1%、東京都で21.7%だが、新宿区では30.4%と非常に高くなっている。75歳以上でも33%を超えている。
孤独死の法的な定義はないが、新宿区では孤独死対策の対象者を「二週間ごと程度に見守る者がいない、独居または高齢者のみ世帯の高齢者」としている。
新宿区内での孤独死の実態は、生活福祉課が把握している数は年間約60~70人。明確な数字をとらえることは難しい。
高齢者の見守り事業は各種行っているが、どれ一つとして利用していない人もいる現状であり、「手あげ方式」ではだめだと認識している。


●団地でのユニークな取り組み

千葉県健康福祉部からの委員は、千葉県では平成18年度から本格的に孤独死防止の取り組みをしていることを報告した。
常盤台団地などでは独自の取り組みをしており、個性的な人が引っ張っているものだが、ほかの地域にも応用できるものがある。


●高齢者は家族がいても不安なもの

エッセイストである委員からは、在宅で10年間母親を介護した経験を通じての意見があった。
この会議は「高齢者が一人でも安心して暮らせる」ということを掲げているが、なんと難しい問題だろうかと思う。高齢者は家族がいても不安なもの。家族を信用できず、老人性うつ病を発症した母親は、家族に無断で部屋の鍵を換えてしまっていたことがある。
夜中にトイレに行こうとしてベッドと壁の間に落ちてしまい、そのまま18時間身動きできなかったこともあった。見守りが必要というなら、24時間必要といわねばならないし、「高齢者が安心して」というならば、そこには介護者の安心も含まれるべき。
メンタルなケアが必要だ。先の委員の発言に「ほのぼの」というのがあった。「ほのぼの」は良いなあと思うが、それを受け入れられるようにしていくことが大切。